2024/08/08 12:00
ぱーぷる編集部(松石)
奈良の風と土が養った個性あるお茶づくりで地域の魅力を耕す『健一自然農園』
先々月から始まった『抹茶・お茶特集』の最後の締めくくり・番外編として『健一自然農園』をご紹介したい。
健一自然農園では、奈良盆地東部に広がる大和高原で、農薬・肥料を使わない自然栽培でのお茶づくりが行なわれている。
県内の『無印良品』でもこの『健一自然農園』のお茶が販売されており、読者諸君の中でも、すでに目にした・味わった方も多いのではないだろうか。
こちらの里山三年晩茶には天理・福住の茶園で3年以上育った茶樹を使用。
通常よりもグンと丈の伸びた茶樹の葉と枝茎を薪火で焙煎する。
やわらかな香ばしさで苦みが少ない。
カフェインも少なめなので赤ちゃんからお年寄りまで安心して飲める。
葉だけでなく枝茎も一緒に焙煎する
奈良の赤いトウモロコシ『大和ルージュ』や黒豆、ハーブとのブレンドなど。それぞれが三年晩茶とマッチし、お互いの風味を引き立てる
こちらは『やまと蜂蜜』とのコラボレーションで商品開発された『はちみつ和紅茶 みつ逢わせ』
『人と自然が調和した世界の実現』を
『健一自然農園』とは、自然栽培という農法を用い、大和高原でお茶の栽培、加工、販売を営む農園だ。
自然栽培とは農薬や肥料などは一切使用せずに、落ち葉などの自然物のみで土を育てて農作物を栽培するという農法。
一般的な農業と比べると手間と時間はかかるが、その土地独自の土で育った農作物は、その土地でしか味わうことのできない風味をもった個性のある農作物となる。
『健一自然農園』は、代表である伊川健一さんが24年前、たった一人で耕作放棄地を借り上げ整地することからスタートした。
現在では多くのスタッフや協力者に恵まれ、山添、都祁、宇陀、福住など県内各地で約30の茶畑を育てている。
お茶づくりを通して、人と自然が調和した世界の実現を想い描く伊川健一さん。
そんな彼の想いについては下記リンクの過去掲載記事【naranto】をご覧いただきたい。
【naranto】環境と調和した自然農で、未来の地球に繋ぐ。奈良の茶園『健一自然農園』代表・伊川健一さん
風は大地を巡る
現在は福住中学校の旧校舎を拠点の一つとして、活動する健一自然農園。
かつてこの福住地域は、『福住茶』という地域名をブランドに冠したお茶を生産するほどの名産地だった。
しかしながら都市部への人口集約が加速する日本が抱える地域課題の例にもれず、高齢化・後継者不足により、現存するお茶農家さんは2022年時点でわずか2件のみ。
そんな中、里山再生アドバイザーとして伊川健一さんがこの地を訪れた。
福住地域を古くから知る地元の方たちへのヒアリングを重ねるうちに、まだその胸の内に『福住茶』に対するプライドが息づいていることに気づく。
「地域の方々や土地に古くからある文化に寄り添って、その想いや魅力を引き出すお手伝いが僕の仕事なんです」と語る伊川健一さん。
今回の福住のプロジェクトでも、その活動はお茶づくりのみにとどまらない。
地域の子供たちとのワークショップや近隣の生産者を集めたマルシェ、さらには福住の三年晩茶を使った企業とのコラボ商品の開発・販売など、地域内外の人々を巻き込み、つなぎ、新たな地域活力を掘り起こしている。
伊川健一さんは自分のことを“風”だと定義する。
“地域に根付くもの=土”に外からやってきた風が刺激を与え、新しい生命の循環を促すというのだ。
中国の古語に『風動いて蟲生ず』という言葉がある。
雄大に横たわる大地に、風が巡り季節の変化を伝えることで、そこに眠るエネルギーを呼び起こす。
伊川健一さんはまさしく“風”だ。
2022年までの10年は、できるだけ外に出向き多くの人たちと関わることで自身の内の知見と視野を醸成してきたという伊川健一さん。
次の10年は県内を中心に活動し、外から運んできた新しい空気と共に奈良の大地を吹き巡る計画だ。
この風が大地と共にどのような草木を芽吹かせ、どのような花を咲かせるのか。
今後も健一自然農園の動きから目が離せない。