2018/10/27 01:00
Vol.16「第70回正倉院展」へ。類まれな至宝。1300年の“奇跡”を見に行こう
土中から発掘された遺物、たまさかの奇跡ではない。
正倉院という倉の中で、守られた。
権力者が奪い尽くすこともなく、
日本人は、この宝を後の世にと保存した。
その宝物が作られた国々には、もはや残らない技術が、傑作が、正倉院には在(あ)る。
それは日本国の至宝であり、世界でも類まれな宝。
日本国内を沸き立たせ、アジアはもとより世界が熱視線を送る「約1,300年の奇跡」が正倉院宝物である。
毎年、毎年、開催されるのに入場者数は減るどころか毎回20万人以上が押し寄せて社会現象となるほどに。それほどに、人々はこの時期、奈良を、正倉院を、目指すのである。
平成最後の正倉院展、3つの特色
「平螺鈿背八角鏡(へいらでんはいのはっかくきょう)」
70回の節目を迎える平成最後の正倉院展は3つの特色を持つ。
1つは正倉院宝物を代表するような贅を凝らした、ひときわ豪奢な宝物が揃う。
目玉展示の一つは、聖武天皇ゆかりの「平螺鈿背八角鏡」。
入り口すぐにあり、来場して真っ先に向かう人も多そう。そして歓声が上がりそう。
鏡の背面には、花びらの形をしたまばゆいヤコウガイがはめ込まれ、花心には赤いコハク。白や水色のトルコ石がちりばめられる。
これほど豪勢に螺鈿をはめ尽くした鏡が、当時の美しさをたたえて残るのは正倉院だからこそ。この宝が作られた唐にも「出土品」がわずかに残るのみ。
「玳瑁螺鈿八角箱(たいまいらでんはっかくのはこ)」
そしてこちらはまさに宝箱。そっと手に取り開けてみたいと夢想する。「玳瑁螺鈿八角箱」。
献納品を収めた箱と推定されるが、この豪華きわまりない箱に、ふさわしい献納品はなんだろう。ウミガメの甲羅を加工したべっこう地に花鳥の螺鈿が施され、大胆で華麗なデザインに、現代のデザイナーもひれ伏す美あり。
「犀角如意(さいかくのにょい)」
美しいもの好きな人なら目が離せなくなりそうなのが「犀角如意」。
僧侶の法具。サイ(犀)の角に象牙や水晶、真珠など豪華な素材がふんだんに使われ、撥鏤(ばちる)の彫り細工も見事。
目を凝らせば凝らすほど、緻密な超絶技巧に魅入られてしまう。
ただの一手も失敗できない恐ろしく緻密な細工ながら、生き生きと鮮やかな文様に、この宝をつくり上げた人の手を思う。
宝物の一つ一つに、素晴らしい技術と胆力を有した、当代一の匠の手。そしてその宝物を手にした人と時代も見えてくる。
シンデレラもびっくり
万葉の千年の典雅
「繍線鞋(ぬいのせんがい)」
2つ目の特色は麻布の展示。これまでの調査の成果が「麻と人の織り成す文化史」として浮かび上がる。
麻の布の工芸品がこれほど美しく、これほど良い状態で朽ちずに残っているのもまた正倉院の奇跡。
光明皇后が履いたともいわれる「繍線鞋」は、紙と麻と絹でつくられ刺繍が施された靴。
シンデレラもびっくりの万葉の千年の典雅にうっとり。これを履いたお妃さまの優美な立ち姿が目に浮かぶよう。
「新羅琴」
そして3つ目の特色は朝鮮半島に栄えた王国、新羅との交流をうかがわせるものも多数出陳されること。
古代楽器「新羅琴」が姿を残すのも正倉院の3面のみ。楽師が掛けひもを首にかけて演奏したとの説もある。どんな音色がしたのだろうか。
このほかにも素晴らしい宝物が合わせて56件、出陳される(うち初公開10件)。
いずれも至宝。いずれも珍貴。
平成最後の正倉院展は節目にふさわしく、華やかで研究成果に満ちたもの。
この画像のどれか1品でも心惹かれたものがあったなら、ぜひお出かけを。
1300年という遥かな時をまとった宝物から放たれる輝きは圧巻。天平の美の息吹に触れられる。
奈良国立博物館
- 住所/奈良県 奈良市登大路町 50番地
- 電話/050-5542-8600
- 営業時間/ 9:30~17:00(土曜日は20:00まで)
備考/入館は閉館の30分前まで。
- 定休日/月/休日の場合はその翌日。連休の場合は終了後の翌日
- 駐車場/無(近隣に有料Pあり)