グルメ宿・ホテル・旅館おでかけ奈良県田原本町
2022/12/02 21:00
ぱーぷる

醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

2022年12月12日(月)~15日(木)に奈良市『奈良県コンベンションセンター』にて、日本初となる『ガストロノミーツーリズム世界フォーラム』が開催される。

そこで、奈良の食と旅について、奈良県磯城郡田原本町にある『NIPPONIA 田原本マルト醤油』の18代当主・木村浩幸さんと、総料理長・大田雄也シェフにインタビューを行った。



『ガストロノミーツーリズム世界フォーラム』とは?


「ガストロノミーツーリズム」とは、地域に根差した食文化を楽しむ旅のことである。

その土地の自然や風土から生まれた、食材や文化によって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的とした、いわゆる「その地域の食」と「観光」をコラボした旅の形である。

奈良県は日本の食文化やその他の文化の発祥の地とされている。
ここから全国に広まったものも多い。

例えば清酒や完全甘柿、まんじゅうなどの「食」だけでなく、樽などの道具や相撲や歴史文化なども奈良県には発祥地とされるものが数多くある。

そんな「はじまりの地 奈良」で開催されるのが、第7回目となる『ガストロノミーツーリズム世界フォーラム』である。

主催するのは、国連世界観光機関(UNWTO)と美食で世界をリードするスペイン・バスク州サンセバスチャン市にある料理専門大学校『バスク・カリナリー・センター(BCC)』。

各国観光大臣級及び政府関係者、自治体関係者及び、教育関係者、食・農・観光関連の事業者及び団体、シェフやジャーナリストなど国内外から約600名が参加を予定している。

食・観光の伝統や多様性をサポートするとともに、文化の発信、地域経済の発展などを目的に、国連世界観光機関(UNWTO)が中心となって、2015年以降、この世界フォーラムを開催している。

今年で7回目となり、日本で行われるのはこれが初めて。

NIPPONIA 田原本 マルト醤油・18代当主・木村浩幸さん・総料理長・大田雄也シェフにインタビュー


醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

『ガストロノミーツーリズム世界フォーラム』が開催されることに伴い、ぱーぷるでは「ガストロノミー最前線」と題し、5回にわたって地域に根差し、食と文化を次世代に繋げていくことに尽力されている4人の人物と、世界フォーラムの直前紹介をお届けする。

今回は田原本町にある奈良最古の醤油蔵『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』の18代当主・木村浩幸さん(以下:木村さん)と、総料理長・大田雄也シェフ(以下:大田シェフ)にスポットをあてる。

70年の時を経て醤油蔵の復活を遂げ、伝えたい思い、感じて欲しいことをお聞きした。

『ガストロノミーツーリズム世界フォーラム』が奈良で開催されることについて、当主である木村さんは、

「世界的なフォーラムが日本で、ましてや奈良で開催されると聞いたときは、最初は驚きました。
でも、ガストロノミーの概念を考えると、観光都市部ではなく、農村や農業が盛んな場所で行われるのは非常に意義のあるものだと思います。
『奈良にうまいものなし』だけが切り取られていますが、実は全て歴史に裏付けがある中で、今も守られています。
そしてその場所に行けば、それぞれのおいしいものがある。
その発信に繋がるのではないでしょうか」

と語った。

たんすに眠る「祖父の前掛け」が蘇らせたマルト醤油の歴史


ここ『マルト醤油醸造元』は、300年以上前から存在する奈良最古の天然醸造の醤油蔵である。

田原本町を含む大和川流域は昔から大豆や小麦の生産が盛んだった。
地元の大豆と小麦を使い天然醸造製法にこだわり、丁寧に作られた醤油は実に風味豊かで、地元の人に愛されていた。

しかし戦後、食糧難により閉業を余儀なくされてしまった。

約70年の時を経て、2020年8月「泊まれる醤油蔵」をコンセプトに『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』の宿として復活を遂げた。

醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

実はこの復活劇の全ては「祖父の前掛け」から始まった。

木村さんが、先代である祖父の遺品を整理していた中で見つけた「祖父の前掛け」。

とても丁寧にしまわれていたその様は、祖父の思いが込められたとても重みのあるものだった。

木村さんは
「この蔵にとってすごく大切なものを見つけた気がした」
と当時を振り返る。

大阪で一般企業に勤めていた木村さん。
祖父から醤油蔵の話を聞いたことは一度もなかったそう。
だからこそ知りたくなったここのルーツ。

同時に見つけた古文書を紐解くにつれて、次々に明らかとなっていったかつての醤油蔵の様子。
原材料をつくる農家さんとともにずっと大事にしてきた醤油蔵。
醤油蔵が地域の人たちとともにあった姿を通じて、田原本の当時の生活、景色、地域性を知ることができた。

それと同時に5年後、10年後のこの場所や食文化はどうなっているのかと思い、初めて危機感を覚えたそう。

醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

「祖父の、醤油蔵を続けたかったけど、続けられなかった悔しさ」
これを胸に自分の人生をかけてもう一度、この地域の魅力を現代のかたちで残していきたい、そして次世代へとつなげたいと思うようになった。

『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』の誕生


「醤油蔵の復活は、家業の復活ですが、それ以上に地域の魅力を伝えるチャレンジでもあった」
と話す木村さん。

山や川、家並みなどの景観、農業などが複合的に重なった景色を織りなす田原本は、まさに日本の原風景ともいえる。

ここにある地域の営み、食の豊かさを伝え、継続的に次世代へとつなげるために「醸造・宿泊・飲食」三位一体の宿として、
『NIPPONIA 田原本マルト醤油(以下:マルト醤油)』を誕生させた。

奈良最古の醤油蔵に泊まる


醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

ここでは「日本の原点」に触れる旅が実現できる。

泊まるのは「大和棟(やまとむね)」と呼ばれる奈良伝統建築様式が色濃く残る醸造棟や居住棟、書庫など。
いずれも築130~140年になり、江戸時代以降の道具や扉、壁、家具などのしつらいから、当時の蔵人の暮らしを感じられるようになっている。時計さえも置いておらず、当時の生活を五感で体験できるのが魅力である。

田原本ののどかな自然に身を置けば、季節のうつろいも滞在しながら感じられる。
現代の雑踏の日常生活では、なかなか手に入らない贅沢なものであろう。

「醤油しぼり体験」や「朝参り体験」では、木村さん自らが案内し、醤油の魅力、田原本の魅力を伝える。
これは、知的好奇心がくすぐられ、初めて知る楽しさを感じた、かつての自分と同じ体験をしてほしいという思いからだ。

醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

「醤油づくり体験」は、自分で体験してみて初めて醤油づくりの大変さが身に染みてわかるという。

無加熱、無ろ過の状態のもろみを上から体重をかけ力いっぱい絞る。
ポタ、ポタ、とゆっくりと落ちる生醤油のひとしずくひとしずくが貴重なのだ。

その上、四季の影響を受けやすい天然醸造というストーリーを知ることで、ありがたみ、そして感動を覚えるだろう。

醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

宿泊してこそ見える景色。当主と巡る朝参り


宿の近くに『大神神社』の別宮と言われる、縁結びの神社でもある『村屋神社』がある。
そこへ朝参りに行く道中では、スピード感のある日常ではなかなか感じることができない香りや光を感じながら、先代たちが紡いできた田畑や景観、歴史について伝える。

今なお息づく地域の営み。

コロナ禍を機に、様々な生活が見直されてきた昨今、観光のありかたにも変化が出てきている。

「みんなでわいわい楽しむ観光も良いですが、歴史や自然と向き合う中で、個人が五感で感じる『心で見る観光』に価値が高まってきているのでは」
と木村さんはいう。

思いを寄せて眺めれば、より一層美しい景色へと変わり、より深い魅力を知ることができるはず。

醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

窓の外には、畑や田んぼが広がり、草花の彩りが四季を映す。

古文書と醤油を通して見えた田原本町の食文化


飽食の現代では一つ一つあまり意識されないが、食文化は自然と共生しているものであって、自然の恩恵を受けて織りなされている。

かつての日本人は春夏秋冬の実りに対し、畏敬の念をもって暮らしていた。

食べ物ができあがるまでのストーリーを知れば、その食べ物を自然と大切に思う気持ちが芽生える。

「食を通して日本人の精神性が垣間見られる。奈良時代やかつての食文化がそんなに昔には思えない」
と木村さんはいう。

今も残っている食文化をこれからも大切に紡いでいきたい。

醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

「美味を伝える料理人」「畑で土を耕す農家」2つの顔を持つ、大田シェフ


醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

宿の中にあるレストラン『蔵元料理マルト醤油』は、2022年ミシュラングリーンスターを獲得している。
(グリーンスターとは持続可能なガストロノミ―に対し積極的に活動しているレストランを評価するもの)

自家菜園では農薬や化学肥料を使わずにこだわり野菜を育てている。さらに、環境にも配慮した取り組みも行っている。
レストランの生ごみ等は肥料にし畑で使用し、醤油の製造過程で必ず出る醤油かすも、食材として生かし無駄をゼロにする。
これが「食と農の循環」を意識した取り組みなのだ。

野菜を愛してやまない大田シェフが畑に興味がわいたのは、鎌倉で出会った自家菜園レストランの採れたての野菜のおいしさに感銘を受けたことがきっかけだ。

長年、日本料理店で料理人として働いていた大田シェフ。
縁があって、奈良県の日本料理店の自家菜園で農業を学ぶことになった。

現在は、近隣3ヶ所の畑で野菜を育てており、手塩にかけて育てた野菜と醤油を融合させた料理をいただくことができる。

料理人にとって自家菜園の最大のメリットは、料理に合わせた野菜を使いたい時に採れるということ。
料理によって適したサイズで収穫ができ、傷みやすい葉物類は新鮮なまま使えることも、野菜を育てている者の特権だ。

醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

大田シェフが創り出す醤油の世界


レストランのみの利用も可能で、宿泊者以外の方でもランチ、ディナーともに醤油のフルコースを楽しむことができる。
前菜からデザートまで醤油が使われている、和をベースとした創作料理だ。

日本料理の経験がある大田シェフにとって、醤油は馴染みのある調味料ではあった。
だからこそ「目新しさ」を意識したという。

自由自在に醤油を操り、調理法で個性を引き出す。
全く違う形で表現された醤油の風味には、醤油の概念を覆されるようだ。洗練された華やかな盛り付けにも驚かされる。

醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

おしながきは天然醸造にちなんだ名前で表現され、メニュー名を見ただけではどんな料理か想像がつかない。
次に何が出てくるか予想するのも、また一興だ。

醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

コースの締めの土鍋ごはんは大田シェフの自信作。

マルト醤油特有のしっとりした醤油かすをご飯にすりおろして使い、土鍋の蓋を開けた瞬間に醤油の最高の香りを爆発させる。

料理で伝える感動


大田シェフが料理で伝えたいことは、まさに「感動」だという。

せっかくレストランに来てもらうからには、その価値をどう見出すか。
使う素材だけでなく、使い方や見せ方に丁寧に手仕事を施す。

普段見ない野菜はお客様も興味があり、新しいものとの出会いは人を感動させることができる。
しかし、「見たことない」ではなく、「知っている」からこその感動もあるという。

例えば、いちじくはそのまま食べる人が多いだろうが、天ぷらにして食べたことがある人は数少ないだろう。
普段食べているのとは違う食べ方をすることで、これもまた新しい出会いとなり感動につながるのだ。
こうした新しい発見を、食を通して楽しんでもらいたいという。

また、野菜にはまだ出会ったことのない種類がたくさんあり、素材そのものの味はもちろん、調理法によってのおいしさもさまざまあるということを知ってほしい。

「野菜は脇役でいい。ただその脇役はめっちゃおいしいものであるように」
醤油の香りと野菜の旨み。ここでは、まさに食文化と食材両方の魅力をたっぷりと味わうことができるのだ。

「何より、食は体のエネルギー。ここで食べて元気になってほしい」
料理には、大田シェフの思いが込められている。

醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

大和野菜など大田シェフが手塩にかけて育てた野菜たち

これからも、田原本の地域の人とこの地の魅力を伝えていきたい。

宿泊施設だからこそできる、実際に触れたり、見ることができる体験を提供していきたいと二人の願いは語られていく。

醤油と野菜の融合で奈良の食文化を紡ぐ『NIPPONIA 田原本 マルト醤油』18代当主・木村浩幸さん、大田雄也シェフ【奈良のガストロノミーツーリズム最前線Vol.4】

第7回UNWTOガストロノミーツーリズム世界フォーラム


会場参加は食・農・観光関連の方のみ。
一般の方はオンライン配信(要登録)から参加可能。
国内外の注目の料理人やオピニオンリーダーの話を聞けるまたとないチャンス!

ぐるっとオーベルジュなら


【奈良のガストロノミーツーリズム最前線に関する記事】


NIPPONIA 田原本 マルト醤油

  • 住所/奈良県 磯城郡田原本町伊与戸 170
  • 電話/0744-32-2064
  • 営業時間/ チェックイン15:00~18:00/チェックアウト~10:00
    備考/レストラン ランチ11:30~14:30(L.O12:00 )/ ディナー18:00~21:00(L.O18:30)
  • 定休日/臨時休業あり HP「マルト便り」をチェック/レストランのみ水曜定休日
  • 駐車場/7台
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