奈良県
2022/10/16 21:00
ぱーぷる編集部(眞杉)

【naranto】「ホトケ女子」を最強の武器にあらゆる仕事を手掛ける『合同会社 榧』代表安達えみさん

【naranto】「ホトケ女子」を最強の武器にあらゆる仕事を手掛ける『合同会社 榧』代表安達えみさん

奈良県内のお寺を中心に、『ホトケ女子』という名で観光イベント、トークイベントに度々顔を出すこの女性をご存知だろうか。
奈良の仏像のことならこの人と言われるほど、知る人ぞ知る存在、奈良県奈良市『合同会社 榧(かや)』の代表安達えみさん(以下:安達さん)だ。

『ホトケ女子』という名を持つが、実の職業はグラフィックデザイナー。奈良の観光リーフレットの作成、ツアーガイドなどを含めた観光PR活動、ときには社寺御用聞きやお寺グッズのデザインを手掛けるなど幅広く活躍する。
また、奈良蔦屋書店では不定期で、自身のトークイベントを開催し、近鉄ケーブルテレビ『ホトケ女子のぶらりまいり』の番組では、自らロケに行き、台本を作成し、さらには出演までこなすなど、奈良の観光をリードするマルチタイププレーヤーとして、奈良の観光促進に尽力している。

自身を『なんでも屋』と表現するように、奈良の観光に関わることなら何でもお手伝いする『よろずフリーランサー』だ。

ここまで奈良の観光に尽力する理由を、奈良に住まわせてもらっていることがありがたく、恩返ししたいという思いがあるからだと語る安達さんは、静岡県出身。

なぜ奈良を選び、なぜそこまで奈良に尽くすことができるのか。


仏像との暮らしを求めて奈良へ移住


安達さんは静岡県に生まれ、大学生のときに美術大学進学のために上京した。

「造形として圧倒的な技術と美的センスを持つ最たるものが仏像。今の人にも作りえないようなものを当時から作っていた史実に感動した。」と、造形の美しさに惹かれ、20代の頃からとにかく仏像が好きだった。

日本には国定指定を受けた仏像が120件以上あるが、そのうちの約70件が奈良県にある。そう、奈良県は国宝指定仏像保有数全国1位なのだ。(※2022年9月現在)
安達さんが行かない理由がない。東京から奈良に度々訪れた。

卒業後は、東京にある大手アニメ制作会社で務めていたが、就職後も奈良へ足しげく訪れた。
訪れているうちに、さらに仏像の持つ独特の世界感、仏像が紡いできた文化や風土をより身近に感じたいと思い、31歳の頃に思い切って退社する決断をした。
そして、大好きだった奈良の仏像に会うために移住してきた。

安達さんが奈良に暮らす理由


【naranto】「ホトケ女子」を最強の武器にあらゆる仕事を手掛ける『合同会社 榧』代表安達えみさん

KCNロケ地での1枚 ©安達えみさん

造形として美しいと語り、愛して止まない仏像の豊富な知識に加え、実際に奈良に住み、お寺の人と会話を重ねていくうちに、仏像に対する信仰の思いが加わることになった。
これが、安達さんの中にあった奈良の歴史に対しての考え方がとても奥深いものへと変わっていくことになる。

奈良に生まれ、奈良で育ってきていない「よそもの」だからこそ見える世界がある。
1000年以上続くお寺がたくさんあるが、それらのお寺はただ「残ってきた」わけではない。お寺に携わる方々のお話を伺っていると、奈良に暮らす人たちは、一つひとつ歴史や文化に対してとても謙虚に、そして大事に守ってきているという。奈良の人たちと出会い、少しずつご縁が深まっていく中で、奈良の歴史と思いの積み重なりがつつましいと感じ、仏像の枠組みを超えて、奈良という特異な文化、土地の虜になってしまったのだ。

そして、大好きな奈良に住むためにも、よそものを受け入れてくれた奈良の人たちへ恩返しをしたいという思いが芽生えてきたという。

知らぬ土地に「好き」という理由だけで移住することになり、何もない自分にいただける仕事には、真摯に向き合い、自然と「期待に応えたい」と思うようになった。

奈良に暮らすことに、特別な理由はない。
奈良が好きで、奈良に住みたい。
ただそれだけなのだ。

全て人でつながっている


奈良に住み8年目を迎える安達さんは、何しろ人との繋がりがとても豊か。
感受性に富み、人との付き合い方が丁寧な上に、人への歩みより方を熟知していることが理由だろう。

当然奈良に移り住んだ当初は、右も左も分からない状況だったが、何もない場所で人と出会い、信頼関係を築いてゆく術は、地域おこしの一環で、鳥取県米子市の映画祭に携わった経験で身に付けていたのだ。

米子市でも「よそもの」だったと語る安達さん。まずは、表面的な行動や対応だけではなく、きちんと地元の人と時間を共に過ごし、距離を近づけてもらうことで信頼関係を作っていくことから始めたそう。

安達さんが信頼関係を築いていく上で大事にしていることは、知らないことは「分からないので、教えてほしい。」と素直に教えを乞うこと。
時には失敗し、叱られることもあるというが、それでも感謝の気持ちをもって、真摯に受け止めることを意識している。相手を傷つけるようなことは絶対にしないように気をつけるなど、当たり前のことを当たり前にできることこそが信頼関係には必要だ。

【naranto】「ホトケ女子」を最強の武器にあらゆる仕事を手掛ける『合同会社 榧』代表安達えみさん

大安寺節分会 での1枚 ©安達えみさん

「(企業対企業ではなく)私は1人でやっているから、(仕事を一緒にする上で)相手が縁を切ろうと思ったらいつでも切れる。でもあえて叱ってくれるということは、私に期待してくれている証拠。次頑張れと言ってもらえているのだと思う。叱って頂ける関係性になれたのはすごくありがたい。」と素直な心で答えてくれた。

この素直さこそが、人から愛され、頼られ、受け入れられる理由の全てなのかもしれない。これまでに訪れた地域で出会った人とは今でも繋がりを持ち続けいる。

安達さんだからこそ成し得る唯一無二の職業


【naranto】「ホトケ女子」を最強の武器にあらゆる仕事を手掛ける『合同会社 榧』代表安達えみさん

御霊神社秋季例大祭ご奉仕の際の1枚 ©安達えみさん

様々な仕事のジャンルの仕事をこなす安達さんは、直にお客様と会える瞬間が楽しいという。

お寺のガイドやトークイベントではお客様の反応が直接見える。お客様の興味や関心事が手に取るように分かるため、自分が話す内容がお客様の興味をつかんでいない状況や、反対に反応が良く、引き込んでいる空気も分かる。お客様から感じ取れるライブ感がとても楽しいようだ。

安達さんはグラフィックデザイナーであることを忘れてはいけない。
ガイドやトークショー現地でお客様と向き合い、五感で感じとった情報を、観光で行きたいと考える人が手に取るパンフレットなどに昇華させられることが安達さんの強みになっている。

さらに、仏像好きでお寺との親交も深い安達さんは、今でこそ住職から相談を持ち掛けてきてくれることも増えてきたが、最初はやはり自分から足しげく通い、デザインや企画の提案をし関係を丁寧に繋ぐ努力をしてきた。

そして、信頼関係が築けたからこそ、彼女の名刺には「社寺御用聞き係」という肩書も存在している。

自らお寺を巡り、見て得たものや、お坊さんから聞いた話など、本には載っていない情報を彼女はたくさん持っている。
ガイドの仕事の中では、そういった裏話を含んだ彼女にしかできない話でお客様を楽しませることができる。

それは彼女の強みであり、彼女にしかできないことなのだ。

【naranto】「ホトケ女子」を最強の武器にあらゆる仕事を手掛ける『合同会社 榧』代表安達えみさん

奈良県高取町にある壷阪寺のグッズ(めがね拭き)。眼病封じのお寺とされていることから、目に関連するグッズをデザイン。

奈良の歴史やお寺の知識があり、お寺との関係性がしっかりとできているからこそ提案できるデザイン。

「もっとかっこいいデザインや、おしゃれなイラストを描くデザイナーさんはいっぱいいると思うんですけど、仕事やプライベート関係なく、ここまで足しげくお寺に通っているデザイナーはそんなにいないんじゃないかな。」と自身の強みを自負している。

風呂敷は広げておくことでつながる世界


安達さんは仕事において、あえて自分がやりたいことを絞らないようにしている。

彼女はお寺を巡るテレビ番組をもっている。
しかし、もともと彼女はリポーターでなければ、女優でもない。
それでも、頂いた仕事には「私でいいんですか?めっちゃ嬉しい。」と謙虚な姿勢と素直な心で受け止め、初めての仕事にも全力で取り組むのが彼女。

「風呂敷は広げておいて、なんでもやりますの状態にしておく。『いつでもお話聞きます!』という姿勢でいると、思ってもみなかった仕事がくるんですよね。」

このスタンスこそが、自分でも知らなかった才能を引き出し、新しい自分に出会うことができるキーとなっているのだ。

夢や目標を掲げてしまうと、それ以外のことを排除し、返って可能性を狭めることになるのではないかというのが彼女の考え。

もし彼女が自分の仕事をグラフィックデザイナーと決めていたら、やったことのないガイドのオファーがきても、専門外であることを理由に断っていたかもしれない。

「周りの人が『安達さんならできる!』と思ってくれたのだから、その思いに応えたいし、私自身も知らない私の可能性を、周りの人が引き出してくれる。」と彼女はいう。

【naranto】「ホトケ女子」を最強の武器にあらゆる仕事を手掛ける『合同会社 榧』代表安達えみさん

©安達えみさん

そして「やったことがないことも、1度やれば経験になる。0から1を踏み出すきっかけを、私じゃなくて周りの人がくれる。」
と、自分から願ってもない機会をまずは、ありがたく受け止める。
自分を必要としてくれる人がいるなら、それに応える以外の選択肢は彼女の中にはない。
「相手の期待に応えたい。」その信念こそが、彼女の中に強くあるのだ。

そして「その一歩さえクリアしてしまえば、2歩目3歩目がすごく楽になる。」と人に与えられたチャンスをきっかけに、自らの手で新しい世界を広げていくのだ。

1年後の自分は分からない。


取材中、「最近、山添村観光協会のコーディネーターにもなったんです。」と打ち明けられた。まだ頂いた名刺にも反映されていない最新情報だった。

話を聞けば、縁あって山添村に引っ越したその日に、手続きのために訪れた役場で村長から直々にスカウトされたという。
すでに、山添村の職員には彼女の噂が耳に入っていたのだ。
「本当に何があるか分からない。」と予想もしていなかった事態に彼女も驚いていた。

しかし、「1年後何をしているか自分でも分からないという。」という彼女のその表情ははどこか期待感すら感じさせる。

型にはまらないことで、内に秘めた可能性を周りの人によって広げられる。
ただ、それは決して受け身ではなく、彼女本人が自ら主体的に学ぼうとする姿勢と行動力があるからこそ今に繋がっているということが分かった。
穏やかな彼女の人柄の中には、ブレない芯の強さがある。

そして、求められることを素直に受け止め、真摯に向き合う素直さを兼ね備えている。
到底誰にでも真似できるようなことではないだろう。

唯一無二の職業を楽しみながらこなす、自由闊達な彼女の姿に、出会った人たちはみな魅了されていく。
私もそのうちの1人。
これからの彼女の活躍に大いに期待したい。

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安達さんが手掛けた商品の一部


【naranto】「ホトケ女子」を最強の武器にあらゆる仕事を手掛ける『合同会社 榧』代表安達えみさん

彼女がプロダクトデザインを手掛けたという折りたたみ傘。大安寺のクラウドファンディングのグッズとして作成。 七重塔を下から見たようなデザインになっていて、傘をさすと雨宿りしているイメージに。

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