2019/04/17 01:00
Vol.21古都の風情のただ中で上質の美と出会う「五風舎」
江戸期から推定180年来の古民家は、光と風をよく通す。
木漏れ日は柔らかに注ぎ込み、古都の風情もはらむよう。
「ここに飾ると作品が生きるようだ」と作家たちに愛されて、
「作品が暮らしにもたらす美が見える」と訪れる人を喜ばせる。
ギャラリー「五風舎」があるのは、東大寺戒壇院へ続く道筋で、名庭・依水園のすぐ近く。
隣は大和路の巨匠、写真家・入江泰吉の旧居である。
いかにも奈良らしい景色の中、古都散策の小径にたたずんでいる。
奈良の美に会いたいならばここ、と遠くから訪れる客がある。五風舎に置かれる作品ならば、と求める客がある。
散策ついでに寄るも良し。奈良の工芸家たちとその作品を愛する客の拠り所であり、開設以来、早や25年になる。
心がほどけて美に向かう
座敷でアートを見る喜び
今でこそ古民家ギャラリーはよくあるが、オープン当初は珍しく、さきがけであった。
靴を脱ぎ、座敷に上がる。座り込んで作品とゆっくり向き合う。
日本人は畳に座るとくつろぐのである。
「うちはお客さんの滞留時間がとても長いギャラリーです」とオーナーの山本 泉・早苗さん夫妻はうれしそうにうなずく。
もとは泉さんの実家であった。昭和の終わりに相次ぎ両親が亡くなり、つぶすか残すか思案の末、修理を頼んだ大工さんが大変良い仕事をしてくれた。
家を見た早苗さんの友人の織作家の提案で、その娘さんの陶芸展が開催された。個展は完売の大成功。美を見る良い空間だと来る人々に褒められた。
それがギャラリーの始まりとなる。
翌1995年、「五風舎」の看板が正式に上がる。
三間続きの和室と土間が美の舞台。光が良い。風が通る。
「五風舎」の名は、泉さんの書の師で、東大寺の管長にもなり、文人画家でもあった清水公照師から教わった「五風十雨」から。五日目ごとに風が吹き、十日目ごとに優しい雨が降る。恵まれた天候をあらわす中国の古語である。
泉さんは当時は大手広告代理店に勤めるサラリーマン。早苗さんは織物をしていたがギャラリー経営はまったくの素人。
それでも知己に恵まれ、当初から作家の質は一貫して高く、その輪が広がり、つながり、「五風舎」の名は確かなものに。
「人に恵まれました。作家さんにもお客さんにも」「わたしたちも五風舎とともに、みなさんに育てられてここまで来ました」と夫妻は口を揃える。
最初は貸しギャラリーとして出発したが、やがてより深く作品を理解するために企画展を始めたことで、「五風舎らしさ」がより鮮明に。「モノづくりのの作家の生計が立つように微力ながらも役立ちたい」と願い、とりわけ若い地元作家の応援に力を入れる。苦労もしたが良い出会いが重なった。
オーナーの山本泉さん、早苗さんご夫妻
五風舎らしさを持ちながら
新しい風を取り込みたい
現在、ご夫妻ともに80歳代に。体力の衰えもあり、5年前から企画展は終えて貸しのみに。それでも五風舎らしさがそれほど変わらないのは「環境と積み上がったものによるからでしょうか」。
この先を問えば「新しい風を取り込みたい」と願う。
かつて現代アートの斬新な作品で彩られたこともあった。これほどの古民家となると、さまざまなものを受け入れて、新しい息を吐くこともできる。
五風舎は新たな出会いを待つようだ。
五風舎で2度目の個展を開く漆芸作家、阪本修さん。「ここは場所も空間も良く、柔らかな光がとてもきれいです」。
ちょうど取材時も若手気鋭の漆芸作家、阪本 修さんの個展が開かれていた。
カラフルな漆器もシックな漆器も五風舎の光と風が受け止めて、今の暮らしの中にあるように、その魅力を引き立てていた。
聞けば展覧会ごとに展示備品を入れ替え、作品に合わせたしつらえをするという。それはかなりの肉体労働を伴うが、今は作家や手伝いの人の助けを得て展示効果を演出する。
まだまだどうぞお元気に。ゆるりと心ほどける空間で、奈良の美をつないでいただきたい。
五風舎
- 住所/奈良県奈良市水門町45
- 電話/0742-22-8162
- 営業時間/10:00~17:00(展覧会により変更あり)
- 定休日/不定休
- 駐車場/無(近隣に有料P有)