2019/03/13 01:00
Vol.20エッジの効いた仕掛けで“彼ら”を見せる「工藝舎」
人気の現代工芸フェア『ちんゆいそだてぐさ』(大和郡山市)も、月に一度の『駅マエクラフト 奈良ノ空カラ』(JR奈良駅)も仕掛けはこの人。『工藝舎』の堀部伸也さんである。
工藝舎は、ただのギャラリーでもストアでもない。ギャラリーを「実験の場」として、ここを起点に「エッジの効いた新しい切り口で彼らを見せていく」。その場は広がる一方で、東京から全国巡回、海外へも。
「彼ら」とは工芸を目指す作家であり職人のこと。「彼らが工芸で食べていけるように。その道筋をつくるのが僕の仕事。ゴールはそこ」とはっきり言い切る。
ゆるぎない思いとともに、目を見張るばかりのその「仕事」は、「まだ始まったところ」とも。
堀部伸也さん.「彼らがものづくりで、ずっと食べていけるよう地位を向上させたい。理想だけでは食べられない。安定した収入、工芸の底上げが目標です」。
堀部さん自身がものづくりの人である。ガラス工芸のバーナーワークという技法を用い、とんぼ玉などガラス細工をつくる職人であり作家。作家は自分の思いを形にし、職人はたとえば6ミリの装飾したガラス玉を1日3000個作れる「プロ中のプロ」。職人としては奈良でただ1人。作家と両方の「手」を持つ人は全国でも稀有の存在という。
東大寺のそばで生まれ、有名ガラス作家に師事。「作家では食べていけない。職人の手も持ちなさい」と言われ、大阪和泉市の職人のもとで職人としても研鑽を積み、父の故郷であった大和郡山へ戻る。工芸の道はイバラ道。代々の家業でもなく、なんのバックボーンも持たない人間が、食べていくのは極めてきびしい。
堀部さんも当初はトラックの荷台に商品を並べて、父と売ることから始めたという。それが約10年前のこと。苦しい日々の中、思い続けたことは、「こんな仕組みがあればいい、何かもっと良いシステムをつくれないか」。やがて堀部さんは、あるクラフト展でギャラリストから声がかかり、個展を開いた後、成功の階段を駆け上がる。イバラ道を抜けたのである。
思うことは「彼らにも僕と同じように道を開いてあげたい」。それが今に続く『工藝舎』への原動力となり、『ちんゆいそだてぐさ』、『奈良ノ空カラ』の始まりとなる。
『ちんゆいそだてぐさ』『奈良ノ空カラ』
ここから始まる、道が拓く
郡山城址周辺で開催される『ちんゆいそだてぐさ』。今年は5月18日(土)・19(日)に開催する。
『ちんゆいそだてぐさ』は今年で7年目を迎える。大きく育ち、2日間で3万人を動員する。成功の理由はいくつもあるが、1つは「どの出展ブースも当初からずっとハイレベルなこと」。
出展は4人の選考委員それぞれの審査会をくぐり抜けたもののみ。「もしブースに空きが出ても、審査に合格しないもので埋めようとは思いません。空いたままでいい」。
そして行政の手が入らないこと。助成金、協賛金は1円たりとももらわない。「もらったら、いろんな意向が入ってきて、コンセプトがブレてしまうから」。
音楽ブースも飲食ブースも選りすぐり「奈良の有名どころ」が揃ってフェアを盛り上げる。
だからこそ2回目から「爆発」した。多くの客とともに、全国からギャラリスト、百貨店バイヤーなどが集まった。「彼らのために」。その思いが、花咲いた。
JR奈良駅で月に1回開催されるクラフトマーケット『奈良ノ空カラ』。
4年前から始まる『奈良ノ空カラ』は「奈良を元気にするため」仕掛けたクラフトマーケット。
こちらは月に一度、多彩な出展がにぎやかに催され、ナイトマーケットも展開。
それもこれも堀部さんのもとに「多くの“仲間たち”が面白がって集まってくれたから」。
そんな仲間たちと前衛的なアングライベントを仕掛けたことも。闇市をコンセプトにボウリング場の廃墟を舞台にしつつ、桜井市の商店街へ仮面行脚を繰り出した『櫻井ゴールデンアワー』は、奈良の遊び好きを狂喜させた。
アングラ&サブカルイベント『櫻井ゴールデンアワー』は多方面から喝采を浴びた。2017年、2018年開催。
工藝舎は「仕組みをつくる場」になる
そしてこれまでの思いを集約し、結実させる場となるのが昨年夏に立ち上げた『工藝舎』である。
『工藝舎』の本来は「仕組みをつくる場」であるという。
「僕らは作家・職人さんを大事にする会社。ものづくりの人たちにいろんなことを提供する会社」。
「ラブコールが絶えない日本の手仕事を目指し、工芸に関わるすべての物や技術、人を取り扱う総合商社」がコンセプトである。
消費者向けに工芸品の販売や体験、ツアーなど。作り手向けにはショップバイヤーとのマッチングやブランドプロデュースなど。さまざまなプロジェクトを発信し、イベントを企画運営していきたいと考える。
2月に開いた「さくらッ娘隊のおひなさま」の展示風景。東急ハンズ梅田展で同時開催された。もちろん工藝舎プロデュース。
デザイン、プロダクト、ブランディング、流通がいかに大切か。
「彼らができないことを我々が補っていこうと」。その思いの先には工芸界の未来がある。
「ファストフード、ファストファッションに慣れた人々が果たしてこの先、芸術にお金を出すか」。
だからこそ新しさが必要だ。
「もっとエッジの効いた切り口で見せ方を変える。音楽も映像も食もからめて、新しい視点から彼らを紹介していかないと」。
これまでもユニークな企画展を仕掛けてきたが、「これからはもっと面白くなりますよ」。
たとえば4月は饅頭の展覧会を開く。
ギャラリー近く、やすらぎの道沿いにある古社、漢國神社(林神社)は饅頭の祖を祀る、日本で唯一の饅頭の社。4月19日には全国から和菓子職人が神社に集う「饅頭(まんじゅう)まつり」が開かれる。この時期に、饅頭に合わせて作家にうつわを作ってもらおうというもの。
そのほか本屋とコラボし、本から得たイメージで作家がティーカップをつくるという試みも進行中。
4月3日(水)~7(日)に開かれる 中村ヨウイチ金工展
巡回展も増えていく。10月からは工藝舎主導で海外でのイベントが展開される。皮切りはバンコクの高島屋。
未来を見る目に、海外マーケットのルートづくりも入る。
いろんな声がかかる。人が集まる。
それでも「まだまだ動き出したところ」という。
一つ夢をと聞けば「もっと作家プロデュースを進めたい。ものづくりが好きなのに食べていけない。でも続けたい。僕はこういう子たちをスターダムに上げたい。1人でも2人でもスターダムに上がったら、夢が与えられる」。
そのためにも彼らの道を拓きたい。その思いはまったくブレず、工藝舎のすべての仕掛けも仕組みもこの道に向かっている。
工藝舎GALLERY&STORE
- 住所/奈良県奈良市高天町45-5
- 電話/090-1898-3149
- 営業時間/12:00~18:00
- 定休日/火曜日
- 駐車場/無(近隣に有料駐車場あり)