2024/07/05 12:00
ぱーぷる編集部(松石)
【城山旅館】奈良盆地が一望できる生駒山の絶景旅館で本格ジビエに舌鼓【奈良のホテル・旅館特集2024】
近鉄生駒駅近くの生駒山の麓からケーブルカーに揺られること数分。
宝山寺の駅に降り立ち、生駒山中腹からの景色に目をやりながら歩いていけば、歴史を感じさせる旅館街のゲートが見えてくる。
戦後すぐまでは県内有数の歓楽街として知られたこの場所も、時の流れとともに色褪せ、独特の風合いを持った街並みの風景を残す。
現在では、古くから営業を続ける旅館や、廃業した旅館をリノベーションしたカフェ、アジアンテイストの飲食店、マンションなどの一般住居など、生駒山の緑あふれる景色の中に多様な時代の生活・文化が息づいている。
そんな宝山寺門前町に昔からの風情を残しつつ、現在も来訪者を受け入れ続けているお宿の1つが『城山旅館』だ。
1970年創業、時代に寄り添うお宿『城山旅館』
途中、電信柱に設置されたブリキの案内看板に導かれつつ、すぐに到着。
半世紀近く前に創業されたお宿ということで、どのような場所なのかと若干身構えつつ訪れるも、目の前に現れたのは意外と(?)すっきりと小奇麗な外観。
数年前にリフォームしたということもあって古い旅館独特の物々しさは感じない。
最近ではお昼に和カフェの営業もスタート。
※和カフェ営業は、水曜日~日曜日の11時半~16時。
曜日限定のカフェ営業だが、抹茶や抹茶を使ったスイーツ、生駒山のヨモギを使ったスイーツなどが楽しめるとあって人気も上々。
もちろん宿泊客も利用できる。
お部屋は眺望◎夜景もぜひ楽しんで
まずお部屋に上がってみると、室内は一見ごく普通の旅館のお部屋といった印象。
壁や窓のつくりにはさすがに経年を感じるものの、このお部屋の魅力はさにあらず。
なんといってもこのお部屋の一番の売りは窓から眺望できる景色の良さだろう。
取材日はあいにくの曇天模様だったが、眼下に広がる奈良盆地の稜線が雨雲と曖昧な色合いで溶け合う風景を眺めるのもまた一興。
また、この『城山旅館』は夜景スポットとしても人気が高い。
広大な緑に自然の力強さを感じる昼の絶景と、街の明かりがキラキラと人の営みを感じさせるどこか優しい表情を持った夜景。
昼夜で全く表情を変える景色を堪能していただきたい。
お料理は前評判にも納得のクオリティー
さてさて、こちらが本題(?)。
『城山旅館』について口コミサイトなどで評価を調べてみるとまず出てくるの言葉が「絶景」そして「お料理のおいしさ」。(次点で女将さんの人柄の良さ)
旅慣れた方ならご存じかもしれないが、団体旅行などを多く受け入れる他県の宿場町では各旅館で板場を持たず、一箇所のセントラルキッチンで作った料理を各旅館へ配達するというケースも少なくない。
しかしながら、奈良という土地では良くも悪くもそういったシステムが整っていないため(宿泊地域が点在するため)、個々の旅館・ホテルでそれぞれの個性が光るお料理が楽しめる。
もちろん『城山旅館』もその例に漏れず、料理長自ら一品々々腕を奮ったお料理が楽しめる。
『ジビエ焼肉御膳』
丹波篠山の猪肉を使った焼肉、そして奈良県川上村の鹿肉の竜田揚が楽しめるボリューム満点のジビエコース。
猪肉は上質で臭みが少なく、脂の甘み・旨味が際立つ。
一人用の鉄鍋で焼き、2種の付けだれをお好みでつけていただく。
鹿肉の竜田揚げは、サクサクの衣に歯通りの良い赤身の食感がマッチしており、あっという間にぺろりと平らげてしまった。
付け合わせの小鉢は、お肉中心のメインとは対照的にお野菜などのあっさりした味付けのお料理が中心。
こういったバランス感に作り手の思いやりの心を感じる。
こちらが鹿肉の竜田揚げ。食感の良さにびっくり。
脂の色が白いほど上質といわれいる猪肉。どうぞ実際にご覧あれ。
世紀も半ばを過ぎて
故・中島らも氏いわく「劇的な事件や出来事の中でも結局は変わらない人の心の在り様をいかにうまく描けるか」が面白いストーリーを描くための秘訣だという。(要約)
客観的に面白い、面白くないは別として、『外的要因によって否応なく変化せざるを得ない中でも、決して変わらない本質的な部分にこそ物事の真価がある』という考え方は他の諸々にも当てはまるのではないかと筆者は思っている。
とかく世相に景気が左右されやすい観光産業の中で半世紀以上ゲストをもてなし続けてきた『城山旅館』。
来年で創業55年を迎えるこの旅館は、1970年に一度目が開催された大阪万博と同い年だ。
現在ではインバウンド客の増加に伴い、彼ら海外ゲストをおもてなしするために着物の着付け・着物レンタルや、お茶室でのお茶体験など新企画もスタート。
さらに2年前からは女将のご子息の一人が調理場に立ち料理長を務めることに。
まだまだ若い青年だが、ブライダル会場やホテル、レストランなどを経営する大手グループの調理場で腕を磨いてきた実力派だ。
激動する時代の中でも常にその時代に即したおもてなしの心で生き抜いてきた老舗旅館。
今後、何が変わり、何が変わらないのか。
そこにあるおもてなしの暖かい心が見える故、筆者は『城山旅館』のストーリーを見守っていきたいと思うのだ。