2024/04/30 21:00
ぱーぷる編集部(松石)
ジビエ肉と奈良県産食材の融合。奈良市猿沢池『セトレならまち』内のダイニングレストラン『じびえ井田』
前回、『「美食・オールインクルーシブ」の宿 』としてご紹介した『セトレならまち』。
今回は、コチラのホテル内にジビエ(フランス語:狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉という意味)にテーマを絞った専門料理店がオープンするとのことで取材に伺った。
カウンター6席のみ、シェフが目の前で腕を奮う特別空間『じびえ井田』
『セトレならまち』内のダイニングレストラン『DINING ROOM IN THE NARAMACHI(ダイニングルーム・イン・ザ・ならまち)』の奥にある個室カウンター。
こちらのスペースで19時から22時まで、6席限定でオープンするのが『じびえ井田』だ。
『じびえ井田』はその名の通り、ジビエの専門料理店。
『DINING ROOM IN THE NARAMACHI』の総料理長である井田弘シェフがゲストの目の前でジビエを使った料理を提供する。
ライブ感&特別感で高級食材であるジビエを満喫する
カウンタースタイルの醍醐味は何と言ってもそのライブ感だ。
目の前でシェフが料理をするその手さばき・手順を拝見しながら、調理工程で気になる部分があればシェフに直接質問することもできる。
調理されるのが特殊な食材を使う料理なら、その特別感はなおさら。
冒頭でもお伝えしたように、ジビエとはフランス語で「狩猟で得た天然の野生鳥獣の食肉」という意味の言葉だ。
欧米では元来、貴族たちが狩猟を行なったのちに楽しむ宴で饗されたのが、このジビエを使った料理である。
お抱えの料理人が腕を奮った貴族たちの饗宴さながら、こちらの『じびえ井田』では、限定6席のカウンターで井田シェフによるジビエ料理を堪能することができるのだ。
厳選されたジビエと奈良県産食材で描かれる芳醇な味覚世界
こちらは鹿のもも肉のステーキ。
ハリのある歯ごたえと、赤身肉の持つアミノ酸の旨味が食欲を掻き立てる。
添えられているのは手前から、醬(ひしお)、粒マスタード、岩塩。
特筆すべきはこの醬(ひしお)。
こちらは奈良県固有の在来品種である「大鉄砲大豆」で作った醤(ひしお)と、ソテーしてペースト状にした大和ふとねぎを合わせたもの。
コクのある塩味が鹿肉のはっきりした旨味に奥行きを与える。
さらに散らされたエディブルフラワーも一緒に頬張れば、エディブルフラワーのほのかな香り・酸味と加わって、複層的な味わいが味覚・嗅覚を喜ばせる。
こちらは井田シェフいわく「みかん畑を荒らして駆除された」猪の肩ロース。
こういった角度からの食材情報には驚いたが、確かに脂の質も比較的軽めで、猪肉にしてはさっぱりとした印象だ。
とはいえ猪肉の、しかも肩ロース部位なので脂もしっかり乗っている。
表面には自家製の燻製オイルを垂らす。
まずはわさびだけでいただけば、猪肉独特の脂の甘みをしっかり感じることができる。
横に添えられているのは先述の「大鉄砲大豆」から醸された「大鉄砲醤油」と、奈良県五條市で養鶏場を営む坂本農園の「白鳳卵」。
醤油を垂らした溶き卵にお肉をくぐらせると、醤油の香ばしさを伴って燻製オイルの香りが際立つ。
猪肉の脂、溶き卵、醤油とオイルの香ばしさが相まって、そのお味はまさに芳醇の一言。
これは予定外(?)アナグマベーコン
ホテルシェフとして活躍してきた井田シェフ。
ジビエ料理にも造詣が深く、多種多様なジビエとその調理法や味わいなど、興味深いエピソードをたくさんご紹介いただいた。
エゾシカ、クマ、アナグマ、クジャク(!)などなど。
そんな中、筆者が過去にアナグマを食して大変美味しかったというお話を伝えるとニコリと一言。
「ありますよ。」
そう言って井田シェフが取り出しまするは、アナグマのベーコン。
なんとこちらは自家製のベーコンで、炭火で炙っていただいた。
少し香りにクセはあるが、甘みのある脂に舌をとろかしつつも、しっかり咀嚼して弾力ある食感を愉しむ。
<食といのちの循環を支える>井田弘シェフ
奈良県はご存じの通り山に囲まれた土地だ。
県の全体の面積の中で山林の占める割合はなんと76.8パーセント。
残りの23.2パーセントに人口のほとんどが暮らし、ほかは鳥獣たちの住まうエリアだ。
そんな中に住まう我々にとって、鳥獣たちとの生活の折り合いというのは都市部の人間が考える以上にシビアな問題だ。
山間の町の農産地では常に害獣問題が付きまとう。
そうした中、野生の猪や鹿など駆除される動物も出てくるわけだが、食資源などで再利用される割合は全体の10パーセント足らずと意外に少ない。
手間やコストの問題もあり、即時に解決される問題ではないが、近年ではガストロノミーへの関心上昇機運もあり、地域風土に結び付いた食文化としてジビエへの関心も高まっている。
「ジビエの利用シーンが増え、商業流通の基盤できれば、ジビエが今よりももっと身近な食材になります。そうなればもっと無駄なく食といのちが循環していくのでは」と井田シェフは語る。
店内の冷蔵庫で熟成中の鹿肉(左端)と猪肉(中央、右)。様々な手法を試しながらジビエの可能性を追求する。
カウンター内側で包丁置きに使われているのはヒグマの骨の一部。
特別な時間・空間を楽しんで
今回ご紹介したお料理は『じびえ井田』で提供されるメニューのあくまで一例に過ぎない。
ジビエはその特性ゆえに仕入れ状況が随時変化するほか、井田シェフも「まだまだ色々な料理を試したい」と意欲的だ。
お料理はコース料理での提供となるので、事前に内容を確認するのも良いだろう。
ジビエに詳しい方も、そうでない方も、とにかく驚きにあふれたお店だ。
料理や素材のお味はもちろんこと、是非シェフとのコミュニケーションも楽しんでいただきたい。