2022/12/24 21:00
ぱーぷる編集部(眞杉)
【naranto】夢は「薬草ばばあ」。奈良が大っ嫌いだった過去から奈良へ恩返し|株式会社ALHAMBRA ・橋本真季さん
2022年10月22日、奈良県奈良市の平城宮跡「みつきうまし祭」にて、奈良で初めての薬草テントサウナが登場。蒸し風呂発祥の地である奈良県で、薬草に魅せられた橋本真季さん(株式会社ALAMBRA・代表)が作ったもの。
現在、奈良の薬草を使ったブランド『THERA(テラ)』の展開や「ウェルネス(美容健康)」を目的とした観光『ウェルネスツアー』なども手掛けている。
橋本さんの目的はただ一つ。
「奈良発祥の漢方薬草を伝えたい・癒したい」
そういう思いもあり、2022年11月には奈良市観光大使に就任した。
地味な奈良県が大嫌いだった
窓から大仏さんが見える家で生まれ育った橋本さん。
幼少期から、地味な奈良が嫌で、華やかな都会に憧れていた。
そんな願いを知ってか知らずか、小学校の頃、父親の転勤で名古屋に引っ越すこととなった。
煌びやかで楽しい生活が続いたが、中学2年の頃にまたも奈良に帰ることになった。
奈良にはセレクトショップはなく、あるのは鹿と大仏さん。
どうしても奈良から出たかったが、厳しい父親は高校も大学も実家を出て、東京に出ることを許してくれなかったという。
大学を出て、大手繊維商社に就職したが、勤務地は大阪。
実家から通うことになり、奈良を出ることは叶わなかった。
そして就職から2年半、奈良から出たかったということもあり、24歳の若さで東京で起業を決意した。
株式会社ALHAMBRAの創立
繊維商社で、ブランドマーケティング事業部にいた経験を生かし、商社業を試みる。
当時、アパレル業界はファッション通販サイト「ZOZOTOWN」がスタートした時代。
販売戦略に長けた橋本さんは、通販やハイブランド・SPA(自社ブランド展開)などで、アパレル業界で戦っていくことは厳しいと悟った。
そこで、大学で留学していた頃に出会った「オーガニック」を思い出した。
オーガニック先進国であるヨーロッパやアメリカでは、オーガニックコスメがすでに日常に溶け込んでいた。
当時はまだ、日本で馴染みの薄かった「オーガニックコスメ」。
「これは次に来る!」と望みを込め、若さゆえの勢いで突き進んだ。
オタク気質が導きだした薬草との出会い
海外から仕入れたオーガニックコスメの販売はすぐに軌道に乗った。
大手百貨店や、人気アパレルショップに置いてもらい、企業のオリジナルコスメのブラディングから開発まで手掛けるようにもなっていった。
そんなある日、オーガニックコスメを扱う中で、ふと目に留まった成分表。
見たことがない名前が並ぶ。
内気でオタク気質があると言われる奈良人の橋本さんは、それが何なのか調べはじめ、すっかりハマってしまった。
勉強するにつれて、いつしか「フィトテラピスト(植物療法士)」、「漢方養生指導士」、「和のアロマ&ハーブマイスター」、「メディカルコーディネーター」などの肩書きが名刺に並んでいった。
日本でもオーガニックが注目を集めはじめたこともあり、自然と「あの人詳しいらしい」と業界で橋本さんの名が広まっていった。
はじまりの地と出会う
探求心の強い橋本さんは、やがて「MADE IN JAPAN」という言葉が気になりだした。
日本で作ってしまえば日本製になるものの、ストーリーがなければおもしろくないと思い、また新たな行動を始める。
日本と言えば「薬草」とひらめき、薬草を極めるため、まずは47都道府県全ての薬草の地を巡ることを始めた。
知れば知るほどに奥深い薬草。
地域によって使われ方は違い、東北で飲んでいるものが、九州では塗って使っていたりするのだ。
そして、知った衝撃の事実。
それは、薬草のはじまりの地が「奈良」だということ。
それも、幼少期から地味で嫌いだった大仏殿こそが発祥の地だったのだ。
とても華やかだった飛鳥・奈良時代は、まさに今と同じ歴史を辿っていた。
震災が起こり、災害が起き、のちに疫病がはやり多くの人が命を落とした。
そこで、聖武天皇がみんなの祈りを同じ場所に向けるために作った大仏殿。
聖武天皇の妻である光明皇后は、体の弱い聖武天皇を薬草や食事で献身的にケアをしていたという。
なおかつ、皇族だけでなく、病院に当たる施薬院(せやくいん)や貧窮者・孤児の為の悲田院(ひでいん)などを設置し、薬草を民衆に与える場所も作った。
さらに、それに加え法華寺内にからふろ(お風呂)を作り、民衆の垢を流したとも言われている。
実は、奈良は薬草だけでなく、福祉やお風呂の発祥の地でもあるのだ。
東大寺正倉院に収蔵されている香木である「蘭麝待(らんじゃたい)」は、1,000年経った今でも香りが残っているという。
それほどまでに大切に丁寧に保管をしてこれたのは、真面目気質な奈良人だからこそだという。
不変と革新を兼ね備え
東京と奈良で今も二拠点で生活を続ける橋本さん。
今は奈良が大好きで、奈良の文化を丁寧に守ってきた奈良時代の人たちに感謝をしているという。
先人たちが大切に守ってきた文化や歴史を次世代へと繋ぐためには「過去・現代・未来の循環」を機能させる必要がある。
過去を伝えることと同時に、今の自分たちにどういう影響があるかということを知ってもらうことが大切なのだ。
そしてこの知恵や技術、人を、これからまた1,000年先へと紡いでいくことも大事だという。
それを体言しているのが、『THERA(テラ)』や『ウェルネスツアー』の活動だ。
全国のみならず世界にも癒しを届けるために、研究・開発しているオーガニックコスメブランド『THERA』。
さらに、観光会社とも協力して開催している薬草・漢方の地巡りの『ウェルネスツアー』や、薬草テントサウナ。
時代が変わっていく中で、その時代に合わせ不変的かつ変革を起こしながら伝えていく。
情報量が溢れている現代社会で疲れている人がすごく多い。
薬草の香りをかいで、泣き崩れる人にも出会うという。
「これを知ってよかったと言ってもらえるのが嬉しいし、やめられない理由の一つ」と橋本さんは話す。
「夢は『薬草ばばあ』なんです。薬草を伝える手段はどういうものが加わっていくか分らないけど。でも先輩がいっぱいいるんで、その称号は全然譲ってもらえないんですけどね。」と冗談めかした。
橋本さんが伝えたいことは、他ならぬ「奈良の薬草を伝えたい・癒したい」だけなのだ。
かつて奈良が大嫌いだった橋本さんは、すっかり奈良に魅せられ、奈良に感謝し、奈良をつなぐ語り手となった。
「今日はどないしたん?ほんならこれ飲んどき」と手を差し伸べ、今日も疲れた人を癒し続ける。
まるで光明皇后のように。
2023年は、より一層地域を巻き込んだ活動にも尽力されるそう。
「1人では何もできないけど、ありがたいことに一緒にやろうと言ってくれる人がいる」と橋本さん。
その理由が私にはわかる。
いつも周りへの感謝を忘れない、まっすぐで一生懸命な橋本さんの姿に誰もが惹きつけられる。
自分がやりたいことに励む一方で、母としての役割も全うする彼女の生き方に心を動かされるものがあった。
これから、もっともっと橋本さんの名前が広がっていくに違いない。