2023/01/27 21:00
ぱーぷる編集部(眞杉)
【naranto】環境と調和した自然農法で、未来の地球に繋ぐ。奈良の茶園『健一自然農園』代表・伊川健一さん
奈良県大和高原に広がる茶畑『健一自然農園』。お茶の発祥地である奈良県。大和高原の気候風土を生かした大和茶がここで生まれている。
斜面を覆い尽くさんばかりに広がる青々とした葉。
取材に伺ったのは10月。お茶の花や実、葉の陰に暮らす虫たちが顔を覗かせていた。
農薬・肥料は一切使わず、「自然の循環」を最大限に生かすことを大切にしている『健一自然農園』。
ここを経営しているのが伊川健一さん。
都祁・山添・田原・室生に広がる茶畑は約11haにまで広がる。
「お茶のことならこの人!」と、現在は奈良県や県外だけでなく、海外からも伊川さんを訪ねてくる。
現在は茶園の経営だけでなく、他企業とのお茶の共同開発や、お茶に関する講演、また地域活性のためのプロジェクトなど多岐に渡り活動されている。
全ての目的は「自然農法のお茶で、地球を救う」ことにある。
茶農園を始めたきっかけ、それは「環境破壊」が理由だった。
伊川さんが茶園を始めたのは、弱冠19歳。
全く無縁だった茶農園を始めた伊川さん。
実は、伊川さんがお茶を始めることになったきっかけは、「環境破壊」で心を痛めたことにあった。
彼は15歳の頃、テレビで見た海外の難民の生活に衝撃を受け、人間の不条理さや矛盾から、奪われていく罪のない命に涙したという。
貧困によって命を落とす人がいる一方、裕福な国でも病気になって亡くなる人がいる。
そんな矛盾した世界に疑問を抱いた。
「なぜ裕福なのに人は病気になるのか。」
そして、これは経済のせいではなく、環境問題が原因なのではないかと思い始めた。
人間の過度な肉食生活のせいで生じる、家畜の増加。牛のげっぷによる二酸化炭素の量が、地球温暖化に繋がっている事実。
農薬を使うことで、ミツバチが帰る場所を失い、自然の循環が不十分なこと。
これらを紐解いていくと、「農業」によるものが大きいということにたどり着いた。
そして、やがて見えてきた「食・命」と「農業」のつながり。
「農業」を変えれば、きっと環境問題の解決につながるはず。
そして、農業の勉強を始め、譲り受けた旧都祁村の耕作放棄茶畑。
およそ15年の間に、葉や枝は好き放題伸び荒れ果てていた。
しかし、大地に根を張り、悠々と空に向かって伸びる木々にはしっかりと命があった。
それらをよく見ると、お茶の木であることを知った。
「この茶畑を生かさないわけにはいかない。」
という思いで、茶園を始めることになった。
初めてお茶と向き合った伊川さん。
お茶に出会ったことで「人間とはどういうものか」改めて考えさせられたという。
お茶を煎じて飲む「人間らしさ」
お茶は全て1種類の木からできている。
その木から取れた茶葉に、人間は手を加え、緑茶やほうじ茶、紅茶などさまざまな味に変え(製茶)、楽しむのだ。
こうして彩り豊かにすることで、「癒し」として心への影響を変えることができる。
そこに「人間らしさ」を感じるという。
「自然から得られるものに手を加え、恵みを得られるということは人間のすばらしさなんですよね」。
もっといえば、お茶で人間の心を健やかなものにすることによって、環境破壊は食い止められるという。
「お茶は健康内面に対して影響をもっている作物だと思うんです。心も含めて健やかになれるようなことを発信したい」と彼は思いを話してくれた。
『健一自然農園』がかかげる「人も自然とある未来へ」という言葉の意味とは。
「人と自然は共生しているということを忘れてはいけない」と伊川さんはいう。
人間は、人間が中心となりこの社会を作っていて、地球を支配していると勘違いしているところがある。
しかし、自然災害など人間ではコントロールできないことが起きる。
ましてや温暖化や、異常気象などそれを引き出しているのは、人間の手によるものだったりする。
人間による大量生産・大量消費によって生まれた環境課題。
あくまで、自然の循環の中に人間はいることを忘れてはならない。
お茶を通じて、明るい未来づくり
自身のお茶の販売はもちろん、大手雑貨店との共同開発、中山間地域に自然栽培によるお茶づくりを広めるプロジェクトなど多岐に渡り活躍されている。
全ては自然農法を広めることで、自然の再生を図るため。
環境を考えて農業をするということは、結果的に自分たちが産まれ育った地域を長く存続することにつながるということを、伊川さんはお茶を通して伝えている。
集落から農薬がなくなれば、生き物が帰ってくる。
やがて川がきれいになり、さらにかつての自然の恵みが蘇れば、人は集まり、また地域が活気づく。
自然の循環を利用して観光に繋がることを願っている。
さらに、子どもたちがもっと自然に触れ合える機会を増やすためのプロジェクトも思案中だとか。
かつて、教師になる夢を抱いていたこともあり、「自分がやりたかったことすべてに携わることができているんです」と幸せそうな笑顔で語ってくれた。
「自然農法」のお茶を通して、伊川さんの活動は続いていく。
自然と経済が健全なものであり続けるために。