2022/11/18 21:00
ぱーぷる
「1日1組」だからこそ叶う贅沢な時間・森のオーベルジュ星咲(きらら)芝田夫妻【奈良のガストロノミーツーリズム最前線 Vol.2】
2022年12月12日(月)~15日(木)に奈良市『奈良県コンベンションセンター』にて、日本初となる『ガストロノミーツーリズム世界フォーラム』が開催される。
そこで、奈良の食の魅力について、奈良県宇陀郡曽爾村で『森のオーベルジュ~星咲~』を経営されている芝田夫妻にインタビューを行った。
ガストロノミーツーリズム世界フォーラムとは?
「ガストロノミーツーリズム」とは、地域に根差した食文化を楽しむ旅のことである。
その土地の自然や風土から生まれた、食材や文化によって育まれた食を楽しみ、その土地の食文化に触れることを目的とした、いわゆる「その地域の食」と「観光」をコラボした旅の形である。
奈良県は日本の食文化やその他の文化の発祥の地とされている。
ここから全国に広まったものも多い。
例えば清酒や完全甘柿、まんじゅうなどの「食」だけでなく、樽などの道具や相撲や歴史文化なども奈良県には発祥地とされるものが数多くある。
そんな「はじまりの地 奈良」で開催されるのが、第7回目となる『ガストロノミーツーリズム世界フォーラム』である。
主催するのは、国連世界観光機関(UNWTO)と美食で世界をリードするスペイン・バスク州サンセバスチャン市にある料理専門大学校『バスク・カリナリー・センター(BCC)』。
各国観光大臣級及び政府関係者、自治体関係者及び、教育関係者、食・農・観光関連の事業者及び団体、シェフやジャーナリストなど国内外から約600名が参加を予定している。
食・観光の伝統や多様性をサポートするとともに、文化の発信、地域経済の発展などを目的に、国連世界観光機関(UNWTO)が中心となって、2015年以降、この世界フォーラムを開催している。
今年で7回目となり、日本で行われるのはこれが初めて。
曽爾村 森のオーベルジュ星咲(きらら)芝田夫妻にインタビュー
「ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」が開催されることに伴い、ぱーぷるでは「ガストロノミー最前線」と題し、5回にわたって地域に根差し、食と文化を次世代に繋げていくことに尽力されている4人の人物と、世界フォーラムの直前紹介をお届けする。
今回は奈良県内のオーベルジュにフォーカス。
現在奈良県ではぐるっとオーベルジュをキャッチフレーズに、食を通じた地域の賑わいづくりや滞在周遊型観光を推し進めており、ポータルサイト『ぐるっとオーベルジュなら』で、奈良県各地の魅力を楽しめるオーベルジュ12軒を紹介している。
その中の1軒、曽爾村「森のオーベルジュ星咲(きらら)」を営むオーナーシェフ芝田秀人さん(以下、芝田さん)と奥さまの委久(いく)さん(以下、委久さん)にお話を伺った。
世界フォーラムが奈良で開催されることについて、芝田さんは
「奈良でも食に力を入れている方はたくさんいますが、まさか世界的な大会が奈良で開催されるとは思いませんでした。すごいですよね」と感想を述べてくれた。
生産地と消費地が近い曽爾村だからこそできること。
1日1組のお客様だけをおもてなしするオーベルジュだからこそ、できるサービスがここにはある。
芝田さんが、この地で伝えていきたいこととは。
なら食と農の魅力創造国際大学校(NAFIC)で学んだこと
芝田さんは、ホテルのサービス業やレストランで長年経験を積んだのち、独立を目指して、2016年に奈良県桜井市に開校した、奈良県立「なら食と農の魅力創造国際大学校(以下:NAFIC(ナフィック))」の1期生として2年間勉強に励んだ。
専攻したフードクリエイティブ学科は、フランス料理をベースとした調理実習に加え、併設されたオーベルジュでの実践研修、農作物の知識を深める農業実習、飲食店の開業に必要なマーケティングの授業など、実学重視のカリキュラムになっている。
芝田さんは、NAFICで料理の難しさや、「食」は味だけでなく生産者の思い、食べる人との関係、食べる空間によって「おいしさ」はつくられるということを学んだ。
地元曽爾村でオーベルジュを
そして卒業後、2019年曽爾村に『森のオーベルジュ星咲~きらら~(以下:星咲)』をオープンした。
奈良県北東部に位置する曽爾村は、秋になると一面すすきでおおわれる高原で知られている。
それに加え、村の西側は国の天然記念物にも指定されている、岩肌があらわな鎧岳(よろいだけ)や、兜岳、屏風岩など壮大な自然が広がっている。
また、日本の伝統工芸「漆塗り」発祥の地としても知られ、守り継がれた伝承の地でもあり「ぬるべの郷」とも呼ばれている。
実は、ここは芝田さんが生まれ育った故郷なのだ。
ハイカーたちにも人気のこの地には、年間50万人もの人が訪れる。
しかし、当時飲食店や宿泊施設がほとんどなかったこともあり、芝田さんは学んできたワインと料理を楽しんでもらうお店を地元で開きたいと、この地にオーベルジュを開くことにした。
オーベルジュとは、フランス語で「宿泊付きのレストラン」を意味する。
ここでは、地元の旬の食材を使った里山フレンチと、自然そのものを楽しむことができる。
委久さんが初めてここへ来た時に、空一面に咲いている様に見えた星が印象的だったことから、付けられた名前が「星咲~きらら~」。
「咲」という漢字には「わらう」という意味があり、ここに来たお客様が笑顔になってほしいという思いも込められている。
この地で生まれ育った芝田さんが一度この地を離れ、気づいた曽爾村の魅力を「食」で紡いでいる。
川の幸・山の幸。地の味を知る
地元である曽爾村は「昔は不便で嫌だった」と話す芝田さん。
実家も農業をしていたが、ほとんど関心がなく、曽爾村の魅力が分からなかったそう。
しかし、中学卒業後に地元を離れ、東京で暮らし、戻ってきて初めて知った曽爾村の魅力。
「遠くにあると思っていたものが、実は近くにあった」
曽爾村の食材、自然の恵みに気付いたのだ。
幼少期に当たり前のように食べていたものが、実はあまり流通しておらず、ここだからこそ手に入る食材がたくさんあることを知った。
夏から秋にかけて山では、「スギタケ」や「香茸(コウタケ)」が生え、村の名人が採ってきて分けてくれる。
さらに、山菜の王様「たらの芽」に対し、山菜の女王といわれる「こしあぶら」まで曽爾村では手に入る。
夏に旬を迎える鮎は9月頃から子持ちの時期を迎え、若鮎とは違ったおいしさを楽しめる。
委久さんは木の実拾いなどが大好きで、9月には坂を下ったところで採れる榧(カヤ)の実拾いに夢中だそう。
榧の実は、近年曽爾村の名物として村が力を入れている食材でもあり、近所には奈良県指定天然記念物に登録されている榧の木もある。
樹齢によってサイズが変わり、そこの榧の実は、通常のものよりかなり大きい。
榧の実を食べるには、下処理に手間はかかるが、煎ってそのまま食べるだけでも十分おいしい。
ナッツのような感覚で料理にも使えるという。
ピスタチオやアーモンドのようなナッツの風味がする榧の実。
四季のある日本には、その地その時にしか出会えないおいしい食材がたくさんある。
それもここに帰ってきて改めて知った。
その地で採れる旬の味にこだわれば「おいしさ」が際立つ。
ここでしか採れない旬の食材をふんだんに使った料理に加え、ソムリエの資格を持つ芝田さんが厳選するワインとともに食せば、より一層贅沢なものになる。
生産者の思い、食べる人との関係
地元ということもあり、横のつながりが広く恵まれた環境にいることに感謝している芝田さん。
畑は友人のお父さんが自由に使っていいと言って提供してくれていたり、
「近所のおばちゃんが、友人が」と知り合いから食材をもらうことも少なくないそうで、話の随所に地元ならではのつながりが垣間見える。
そしてその横のつながりこそが、生産者と消費者との距離を縮め、信頼が生まれ、おいしさへとつながっているのだ。
お客様の中には、野菜嫌いの小さな兄妹が、ここへ来て食べられるようになったと喜んで帰られた例もある。
お兄ちゃんはここの大和野菜を「甘い、甘い!」と言って食べ、さらに野菜嫌いの妹は、大和のこだわり野菜「大和寒熟ほうれん草」をそのまま生で根からおいしそうにかじっていたという。
それは、単にその野菜がおいしいだけでなく、生産者と消費者との関係性にもある。
芝田さんや委久さんは、野菜がどんな人がどんな思いで、どういう風に育ててきたのかの物語まで、お客さんとのコミュニケ―ションの中で伝えている。
そうすることで、それを食べた人の感じ方は一味違うものとなる。
生産者と芝田さん、そして星咲を訪れたお客さんとの距離が近いことから生まれた信頼関係があってこそ、より一層「おいしい」と感じるのだ。
「今ではなんでもネットで手に入る時代だけど、農家さんの思いを知って出すと、提供する側の心持ちも違う。きっと受け取る方も感覚が変わってくると思う」
と委久さんは話す。
取材中に初めて食べさせていただいた榧の実のおいしさに感動した。
それもまた、その実の魅力、手間暇かけて作られたストーリーを聞き、この空間で食べたからこそ、より一層おいしく感じたのだろう。
食材のことを何も知らずに、都会のビルでパソコンと向き合いながら食べるのとはやはり違う。
生産者との距離が近い曽爾村だからこそ、そして1日1組だからこそできる、ここにしかない「おいしさ」を星咲は提供しているのだ。
くつろぎ感と特別感が最高の演出「森のオーベルジュ星咲~きらら~」
さらに、おいしさを感じるのに重要な「空間」について。
自然に囲まれた最高のロケーションに佇む星咲。
駐車場に車を停めた瞬間、目に飛び込んでくる山と谷が織りなす雄大な景色に思わず声が出る。
木のぬくもりをいっぱいに感じるダイニングルームはシンボルツリーであるクワの木と、青い壁が特徴的でくつろぎの空間が広がっている。
「絵本の虫が住んでいそうな空間」をコンセプトにつくられており、取っ手の扉には枝を使用した遊び心が。
茶たくをシェードに使ったランプを枝にぶら下げてみたり、
「虫だったらこんなふうにお客様を迎えるのかな」と想像しながら委久さんのアイデアでつくられた。
また、地元の人からすると当たり前の風景も訪れた人にとってはどれも非日常感を感じる特別なもの。
人々は都会の喧騒から離れ、自然・癒しを求めてここを訪れる。
虫の声、鳥の声、風の音、邪魔なものがいっさいないからこそ感じとれる自然の音は、疲れた体に安らぎを与え、心を穏やかにしてくれるのだ。
夜には満天の星空を独占でき、日中は壮大な風景を望むことができる客室。
ここでは普段では見ることのできない自然の色や表情に出会える。
「雨の日はがっかりされる方も多いんですけど、意外と雨の日の方がラッキーだったりするんですよ」
と委久さん。
梅雨時などは、雨上がりの早朝カーテンを開けると、蒸気が上がりやがて、霧で真っ白になっていく様子を楽しむことができる。
また、
「次は薪ストーブの季節に来ます」
と違った体験を楽しみに訪れるリピーターも多いそう。
料理だけでなく、里山・曽爾村ならではの風情も楽しめるのが、星咲だからこそ。
訪れた人が2~3時間だけでは感じることができない、体験をここでは味わうことができる。
最後に
「まだ知らないものとの出会いがたくさんあるので、勉強していきたい」
と芝田さん。
曽爾村には空き家が多いこともあり、それらを活用して曽爾の良さを体験できるような場を増やしていきたいそう。
分断されがちな生産者と消費者を繋ぎ、その地の自然や文化、歴史を「食」というもので紡いでいく。
第7回UNWTOガストロノミーツーリズム世界フォーラム
会場参加は食・農・観光関連の方のみ。
一般の方はオンライン配信(要登録)から参加可能。
国内外の注目の料理人やオピニオンリーダーの話を聞けるまたとないチャンス!
ぐるっとオーベルジュなら
なら食と農の魅力創造国際大学校(NAFIC)
【奈良のガストロノミーツーリズム最前線に関する記事】
森のオーベルジュ 星咲~きらら~
- 住所/奈良県宇陀郡曽爾村小長尾658-1
- 電話/0745-88-9155
- 営業時間/チェックイン16:00 チェックアウト11:00
- 定休日/水
- 駐車場/有