2025/03/29 17:00
難波美緒
【奈良古代史にみる絆】(vol.6)君といる今日を忘れたくない!―春日野
『天皇との絆で訪ねる古代史―日本古代のLGBTQ!?』(日本橋出版、2024)の著者で日本歴史文化ジェンダー研究所代表の難波美緒が、古代史より「絆」をひもとき、奈良に関連するエピソードを紹介するシリーズのエピソード6。
春日野がどこにあるか、奈良の人なら、春日大社の辺りでは?とすぐに分かるだろう。辞書では「奈良市街地東部、若草山、御蓋山(三笠山)西麓の台地で、北は佐保川、南は能登川に限られ、東は奈良公園内一帯から市街地に及ぶ。」とされている。東大寺・春日大社・興福寺や、「ならまち」をまるっと含んだ、意外と広い範囲になる。
今、「野」に相応しいのは、東大寺近くの春日野や、春日大社の飛火野と呼ばれるあたりだろうか。木も少なく原っぱが広がる風景だ。春日野には国際フォーラム甍が建てられているため、より原っぱに近いのは飛火野だろう。

(左)鹿の赤ちゃん(小さくて可愛い!) (右)鹿寄せのホルンを吹く様子 撮影:難波美緒
ここは鹿苑(ろくおん)という鹿の角切(秋)や鹿の赤ちゃん(初夏・通常6月)を公開したり、傷ついた鹿の保護をしたりする施設の隣にあって、季節限定で鹿寄せという行事が行われている。ホルンを吹いて鹿を集め、餌のドングリを与える奈良の風物詩だ。ホルンが鳴ると、鹿は一列縦隊(!!)に並んで駆けてくる。飛火野に集まるのは数百頭で、なかなか見応えがある。

角笛で集まった鹿にドングリをやる瞬間 撮影:難波美緒
この春日野で詠まれた歌の一つが『万葉集』十巻の1880首にある。
十/一八八〇
春日野の 浅茅(あさじ)が上に 思ふどち 遊ぶ今日の日 わすられめやも
原文は万葉仮名なので、一音に一漢字が充てられるが、現代の漢字を使って表すとこのようになる。「どち」というのは、古代の言葉で「友達」とか「朋友」という意味で、それを知ってから読むと、なにやら普通の友情以上のものすら感じさせる歌となっている。
春日野に遊びに来ている友人に呼びかけて、今日の日を忘れたくないものであると詠んでいる訳だが、ただの「どち」ではなく「思ふどち」なんて言葉を付けているあたり、相手に特別な思いがあるようだ。
春日大社までの道すがら、右に見える原っぱで、奈良時代に遊んだ貴族たちを思い浮かべるのも一興だろうか。

グルーミングする鹿@奈良公園 撮影:難波美緒
《参考文献》
『天皇との絆で訪ねる古代史―日本古代のLGBTQ⁉』(日本橋出版、2024)
『万葉集』巻十、1880首
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