2019/11/20 01:00
Vol29.山本本家「松の友」専務取締役 山本 隆
蔵から蔵へ渡り廊下がつなぐ。下の道は一般道
「山本本家」の蔵は面白い
創業300年の老舗蔵。蔵の前は8代将軍・徳川吉宗も通った街道。同じ道だが東に向けば伊勢街道、西を向けば紀州街道。
店先から仕込み蔵までドーンと突き抜ける通路はフォークリフトが入り、大手企業のTVCMでも紹介された。
蔵を奥へ進めば川に出る。なんと川の向こうにも蔵があり、川の上に架かるのは蔵仕事の「洗い場」である。
川向こうに並ぶ蔵は道の上を蔵から蔵へ「渡り廊下」でつながっている。
「林業が盛んだった明治から昭和の初めが蔵の最盛期。
一升瓶をぎっしり積んだ2トントラックが帰りは空瓶で満載だったそうです」と語るのは、次代の跡取り、やがて10代目を継ぐことになる専務取締役の山本隆さん。
蔵の景色に昔の活況が映るようだ。
通りは「五條新町通り」と呼ばれ、江戸期の街並みが残る観光名所となっている
「山本本家」も山持ちである。
吉野に山林があり、山守が手入れをする杉檜を生産する。
「かつては林業の男衆を癒す甘い強い酒でした」。
看板酒は当時と変わらない「松の友」。
だが今は、時代が好む淡麗辛口。すっきりキレる食中酒である。
生産量は減ったが普通酒以外、特定名称酒は増えてきた。
「おいしい酒を丁寧に造っているという自負はあります」。
時代は変わった。
日本酒の消費量が減る中で、奈良の蔵は、いや日本中から造り酒屋は次々と姿を消す。
繁盛とともに歳月を重ねた蔵も、生まれ変わりの時を迎えた。
二本足で立とう
「柿ワイン」と純米大吟醸「松の友」
日本で最初に柿のワインを造った清酒蔵である。
蔵のある五條は名高い柿の名産地。この地の富有柿といえば味も生産量も日本一と称される。
その甘い甘い富有柿をワインに仕込んだ。
「この地ならではの酒を造りたい」という思いと奈良県からの誘いが結ばれてワインとなった。
もう30年も前のこと。平成元年くらいから県の工業技術センターをパートナーに研究を繰り返したという。
「商品化までは紆余曲折。柿はネバっこい果実です。このネバネバ成分のせいでアルコールをつくる菌が動きづらくて発酵が進まない」。
そもそもワイン醸造の免許が無く、得るにはたくさん造らねばならない。見込みもないのに「ここで活路を見出さねば」と賭けに出た。
五條のおいしい富有柿のもろみ、ふつふつと発酵中
そして生まれた柿ワイン。
味は白ワインのようで、リキュールのような果実感は無いがさっぱりと飲みやすい。わずかに口中に残る渋みは柿にたくさん含まれるタンニン。健康成分で知られるポリフェノールの一種で体に良いもの。
約30年が経ち、五條の柿ワインは清酒とともに蔵の2枚看板となった。
1本足で立つより2本足でしっかりと立つ。
「これからは無濾過生の柿ワインも手がけます」。
すでに近くのレストランに卸して好評。
「新鮮な味わいを楽しんでいただけたら」。
玄関の店舗部分には杉玉が30個以上も吊るされていた。大神神社の杉玉である。吉野山上にある世界遺産の古刹、玉置神社のお神酒も造っている。仕込み蔵まで続く道はフォークリフトが入る
今期から蔵元杜氏へ!
初の1本を仕込む
立つと言えば、これからの転機として、隆さんが蔵元杜氏として立つことに。
これまでは3人の社員が造りを行なってきたが、隆さんも修行を重ね、他県他蔵でも学び、用意を進めてきた。
この地域ならではの酒を造りたい。そしてそれは自分の1本だと胸を張りたい。
今期から杜氏として初の1本を仕込む。
「自分好みの酒です。これまでの淡麗辛口とはまた異なる厚みのある酒にするつもり」
今期から杜氏へ。専務取締役の山本隆さん
観光蔵へ、夢をつなぐ
そしてその先に見る夢は、蔵を観光蔵にすることである。
実は当代蔵元、父の9代目、山本陽一さんは五條新町の景観保存、観光名所化に力を尽くした立役者の一人。
そんな父の思いに重ねるように未来を見る。
創業300年の蔵の建造物は築推定250年。
「店舗のあたりを試飲のできるカフェに改装して、蔵見学とともに楽しんでもらいたい。ゆくゆくは造りもガラス張りで見学してもらったり、いろいろと考えていきたいですね」。
大層風格ある建物、そして橋の上、道の上の珍しい造り。酒とワイン、蔵の風情まで楽しめて、多くの人の笑顔の花咲く蔵となるだろう。
いろんな時を300年も重ねた蔵は、その時また、新たな顔を見せることになりそうだ。
株式会社山本本家
- 住所/奈良県五條市五條1-2-19
- 電話/0747-22-1331
- 営業時間/
- 定休日/無
- 駐車場/なし