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大和蔵元探訪酒めぐり

Vol24. 稲田酒造「稲天」蔵元杜氏 稲田光守

天理教の御神酒を一手に。商店街のど真ん中で醸す「稲天」蔵元インタビュー

  • 情報掲載日:2019.06.19
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。

ほかの蔵とはかなり違う。
こんな蔵、ほかにない、というくらい

奈良で一番長い商店街にある酒蔵

まずは商店街の中にある。
それも奈良県で一番長い全長約1kmの商店街のちょうど真ん中。蔵は人々の目印、待ち合わせの場所となるほどだ。

そして蔵はその始まりから天理教とともにある。明治創業。教祖に酒蔵か宿をと言われ、開いた蔵だ。以降、天理教の御神酒を一手に引き受ける。

さらに蔵はその売り上げのほぼ全てを蔵の店舗で売り切るという。石数は150石。天理の人と、天理に来た人が稲田酒造の大事な客である。

それは蔵の歴史と密接に重なって、ほかの蔵にない魅力であり、特色になっている。
そしてその特色に、いま新しい色を加えようとするのが稲田酒造5代目にして蔵元杜氏の稲田光守さん。
この数年で設備投資を重ね、昨年は「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」、今年は「全国新酒鑑評会」で金賞を受賞。
自らが杜氏となったことで生まれた「酒造りへの欲」が今、蔵を大きく変えようとしている。

「奈良でもっとも分かりやすいところにある酒蔵でしょう」と稲田さんは笑う。たしかに迷いようが無い。
天理駅から商店街をずんずん歩けばたどり着く。
ドンと明るく開放的な、酒蔵の店舗と思えない店構え。試飲も蔵見学も大歓迎。蔵見学はなんと稲田さんが案内人。クイズも交えて話し上手の蔵元自らの案内は評判上々。
「商店街に蔵があるんか、珍しいな、と言われますが順序は逆。酒蔵が先で、その前が商店街になったのですよ」。

蔵を継ぐのは決まっていた。だが造りに携わるのは想定外。造りは但馬杜氏で、経営を司る。近大でゴルフ部に属し、就職活動も一切せず、大学卒業と同時に父の下で家業に入った。
「エラいときに帰ってきたな」
皆に言われた。日本酒業界は低迷。ほとんどの中小酒蔵が生計とした、大手メーカーに酒を売る「オケ売り」も姿を消し、転換期を迎えていた。
ただし天理教のお神酒を醸す稲田酒造は「景気にはあまり左右されない」蔵であった。
それでも危機感はつのる。オケ売り先も無くなった。このままで良いのだろうか。

あんたが造りなはれ

答えは長年蔵に務め、高齢で引退を決めた但馬杜氏の一言から始まった。
「あんたが造りなはれ」。
今から15〜16年前、30歳のとき。蔵元杜氏がぼつぼつと現れだした頃だ。
業界の浮沈を広く見てきた翁は先を読んだ。日本酒業界とともに蔵の未来も変わるのだ。

まったく意識になかった未来。なのに腑に落ちた。
「造りの知識はゼロ」。悩みはしたが、結局は蔵の未来は我が手にあると覚悟を決めた。
それから一年、杜氏と文字通り寝食を共にし、何もかもを記録にし、一年後、その手で酒を醸し出した。

その結果は「惨敗でした」。
酒の評価は悪くなかった。だが思い描く酒にならない。甘い、辛い、キレる、が狙い通りに出ない。
だからこそ、意識が上がり、欲が出た。もっともっと誰もがうなる、旨い酒を造りたい。
「これから10年、酒造りに没頭しよう」。

その後はひたすら酒に向かった10年だった。10年経って、顔を上げれば自身の蔵が、自身の酒が見えてきた。
蔵に足りないもの、要らないもの。
さぁ、ここからが始まりだ。

秋田杉の麹室を新築。ヤブタの最新の搾り機や洗米機など2年で蔵の設備を刷新した。
秋田杉の麹室を新築。ヤブタの最新の搾り機や洗米機など2年で蔵の設備を刷新した。

国の助成金を2年連続で得て、設備を刷新。 設備投資の次は酒。自身が思い描く、狙い通りの酒である。
「ずっと違和感があったんです」。
たしかに商店街に店を構え、毎月26日には参拝客で繁盛する。観光客の土産酒。それで良いのか。
抱えてきた違和感を、自身の酒で祓っていく。

その一つが奈良県独自の酵母、大神神社の境内のササユリから採れた山乃かみ酵母を用いた酒だ。
山乃かみ酵母は造りの安定が難しく、優良酵母とはいかないが、自身は好む。「味が好き。酸もよく出るし、しっかりしたボディ感がある」。
もしもこれまで山乃かみを飲んで満足いかなかったら「次はうちの酒を飲んでほしい」と胸を張る。「うちの蔵との相性が良いのです」。自慢の酒だ。「きれいな山乃かみ」が味わえる。

左端は「全国新酒鑑評会」、右端は「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」でともに金賞を受賞した「黒松稲天」。中央は天理の契約農家が作った米「吟のさと」を用いた「氷室のさと」。将来的には全て天理産の米にしたい。
左端は「全国新酒鑑評会」、右端は「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」でともに金賞を受賞した「黒松稲天」。中央は天理の契約農家が作った米「吟のさと」を用いた「氷室のさと」。将来的には全て天理産の米にしたい。

昨年、その山乃かみ酵母を用いた純米酒「黒松稲天」で「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」 2018年度 金賞を受賞した。
この年、仕込みの最も良い時期に当たる1月、2月、純米酒のみを醸していた。賭けたのである。
社員2人と自らと、150石の小さな蔵では、時期がずれると忘年会など出荷に追われてしまう。
「100%専念したい」。だから純米一つきり。これまでの最上を狙って全力で醸した成果であった。

賭けは勝ち、さらに今年は、全国新酒鑑評会で念願の金賞を受賞した。
今度は大吟醸の「黒松稲天」。まる2ヶ月、大吟醸だけに取り組んでいた。
取材の翌日が広島での受賞お披露目会。それまでは「余韻に浸ります」と満面の笑顔。

受賞した華やかな吟醸酒は、稲天の酒を手にしてもらうための看板酒となった。
そして看板といえば、表看板はもう一つ。酒粕と奈良漬である。
「酒粕の小売はたぶんうちが奈良県で一番多いのでは」。そして奈良漬は昨年、ヤフーショッピングで週間売り上げ連続1位に輝いたこともあるほどよく売れる。
「大の漬物好きの母が作る奈良漬が、近所の人に大好評でいつしか店に置くように」。甘口で食べやすい「おふくろの味」は今や、酒と両輪を担うほど。
その立地。その歴史。その特色を生かして、稲田酒造は天理の地にしっかり幹を下ろし、元気に新たな枝葉を広げているようだ。

蔵元杜氏の道を歩んで15年。
土台はできた。設備を整え、賞も取った。思いの酒が手にできる。
ここまでは「筋書き通り」に運んだという。
惨敗の後、誓って決めた蔵物語。この熱を抱いたまま、物語を先へ進めていく。
「真価が問われるのは来年。令和元年酒造年度だと思っています」。
そのときに蔵物語の新章が開くはずだ。
続きが楽しみ。乞うご期待!

Information

稲田酒造合名会社
住所
奈良県天理市三島町379
電話番号
‎ 0120-171-054
リンク
稲田酒造

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