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大和蔵元探訪酒めぐり

Vol22. 奈良が生んだ清酒のはじまり、菩提酛。発祥の地で8蔵が醸す

今の酒はここから。初の澄み酒、初の夏酒。正暦寺から蘇る

  • 情報掲載日:2019.05.22
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。

古都・奈良は清酒発祥の地である

コクの深い旨口で、しっかりした酸は高めである。
あぁ、うまい。心が600年も前に飛んでいく。
なにしろこの酒は室町時代の醸造法を現代に復活させた菩提酛(ぼだいもと)。清酒の始まりの酒である。そしてこの酒は、生まれた寺の菌を使い、水を用い、その水で育った米を使い、霊山の空気をたっぷり吸って、まさにその寺で造られた、蘇りの酒なのである。

奈良の8蔵が毎年1月に正暦寺境内で菩提酛を仕込み、各蔵に酛を持ち帰って醸造する。清酒祭ではその様子を公開。2度目の仕込みを見ることができる。
奈良の8蔵が毎年1月に正暦寺境内で菩提酛を仕込み、各蔵に酛を持ち帰って醸造する。清酒祭ではその様子を公開。2度目の仕込みを見ることができる。

日本の都のはじまりである奈良は、いろんなものがはじまったところ。
酒の技法が爆発的に進化を遂げ、今に通じる酒造りの基礎が確立。清酒が生まれたのも、ここ奈良と伝わる。
時代は中世・室町。仕込みを三回に分ける三段仕込みや、麹と掛け米に白米を使う諸白造り、そして菩提酛(ぼだいもと)を用いる菩提酛造り。すべてが奈良から始まった。

正暦寺境内で発見された天然の乳酸菌で造った「そやし水」で乳酸発酵させた生米を甑に移し、蒸し上げる。作業をする菊司醸造の駒井大さん。
正暦寺境内で発見された天然の乳酸菌で造った「そやし水」で乳酸発酵させた生米を甑に移し、蒸し上げる。作業をする菊司醸造の駒井大さん。

そしてその舞台となったのが、一千年以上の歴史を誇る菩提山、正暦寺。
当時、大きな寺では僧坊酒と呼ばれる酒造りが行われていたが、その筆頭格で高い技術を誇った寺である。
寺には嘉吉元年(1441年)の記録が残るが、実際にはその少し前、室町初期から中期にかけて、この醸造法が寺から生み出されたとされる。

倉本酒造の倉本隆司さん。これから蒸した米をムシロに移す。
倉本酒造の倉本隆司さん。これから蒸した米をムシロに移す。

菩提酛造りは生米を水に漬け、乳酸で酒を発酵させるという画期的な技法であった。
それまでの酒といえば、どぶろく。濁った保存の利かない酒である。仕込みは冬のみ。ところが菩提酛造りの酒はきれいな澄み酒。しかも丈夫な酸の働きで旨味があり、日持ちが格段に良く、暑い夏の仕込みも可能にした。

初の澄み酒、初の夏酒の誕生である。その頃、町民による酒造りも行われていたが、ちまたの酒より数ヶ月も先に売り出されるこのきれいで旨い夏酒は、大変な人気を呼んだという。

冷ました蒸米を再びそやし水と混ぜ合わせる。2度混ぜることで酸度を高め、安全な仕込みができるようになった。左端は今西酒造の今西将之さん。
冷ました蒸米を再びそやし水と混ぜ合わせる。2度混ぜることで酸度を高め、安全な仕込みができるようになった。左端は今西酒造の今西将之さん。

やがて時は流れて明治時代になると、早く仕込める速醸酛が登場。大正時代には手間のかかる菩提酛は途絶えてしまう。

そして1995年。この幻の菩提酛造りを再現しようと奈良の蔵元有志、奈良県工業センター、正暦寺による「奈良県菩提酛による清酒製造研究会」が立ち上がった。古文書をひもとき、研究を重ねて3年後、1998年の夏に正暦寺境内から菩提酛の天然酵母、岩清水からも乳酸菌が見つかった。

この奇跡のような発見を経て、醸造法を試行錯誤を繰り返し、ついに「菩提酛清酒」が復活。約600年ぶりに幻の酒は息を吹き返すことになった。

この霊山と菩提泉川を守るため
600年前も今も、祈りが先の菩提酛

見渡す限り正暦寺の境内地。明治以前はさらに広大な寺領があった。
見渡す限り正暦寺の境内地。明治以前はさらに広大な寺領があった。

晴嵐、せいらん。正暦寺の古代絵図に名の残る絶景スポットの一つである。その場に立つと晴れやかで大きな菩提山の気を受け止めることができるようだ。 
かつてこの霊山一体に、全盛期で120もの僧坊が建ち並んだという。
「当時は広大な寺領があり、多くの僧坊を抱えるがゆえ、莫大な経費や維持費をまかなうために僧坊酒が造られたのです」と語るのは大原住職。

酒が先ではなく祈りが先。
そして今もこの霊山と、清らかな菩提泉(ぼだいせん)の水を守るにはどうすれば良いか。思案を巡らせていたところ、蔵元たちから菩提酛復活の話が寄せられた。「境内を勉強の場にしたいと申し出られ、寺にとっても貴重な研究。酒造りには清らかな水が必須。酒の文化とともに水の文化を守ることにもつながる」と快諾した。

正暦寺の大原弘信住職「菩提泉川のせせらぎは千年前に人の手で、川の石一つ一つを丁寧に磨いて造られました」
正暦寺の大原弘信住職「菩提泉川のせせらぎは千年前に人の手で、川の石一つ一つを丁寧に磨いて造られました」
正暦寺の菌、水、その水でつくった米、境内地で醸された菩提酛の酒
正暦寺の菌、水、その水でつくった米、境内地で醸された菩提酛の酒

正暦寺で造られた菩提酛による「菩提酛純米酒」を醸す8蔵とその酒は、左から北岡本店の「八咫烏(やたがらす)浩然の気」、「葛城酒造の「百楽門(ひゃくらくもん)」、倉本酒造の「つげのひむろ」、八木酒造の「升平(しょうへい)」、油長酒造の「鷹長(たかちょう)」、菊司酒造の「菊司(きくつかさ)」、上田酒造の「嬉長(きちょう)」、今西酒造の「三諸杉(みむろすぎ)」。

毎年1月に2度の仕込みを行い、できた酛を蔵に持ち帰って醸造。3月に新酒品評会を開き、その後、4月前後に販売される。蔵によっては数ヶ月寝かせる蔵もあれば、古酒もある。10年ほど前までは酒質を決めて、甘酸っぱく濃醇な味わいで統一したが、現在は蔵の個性を生かして甘口から辛口まで様々にリリース。どっしり濃い味、軽やかな味、それぞれ味比べをして好みの菩提酛を選ぶのも酒飲みの楽しみである。

Information

正暦寺
住所
奈良県奈良市菩提山町157
電話番号
‎0742-62-9569
リンク
正暦寺

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