2018/10/03 01:00
Vol.15日本画に庭と茶と。上村松園・松篁・淳之の作品そろう「松伯美術館」
奈良市学園前。ここには3つの美術館がある。
日本・中国・朝鮮の美術を所蔵する大和文華館、近代日本の洋画・日本画を所蔵する中野美術館、そして近代日本画の女流画家の大家、上村松園とその息子、上村松篁、孫の上村淳之の三代の作品を展示する松伯美術館である。
3つ巡るもほど良い距離だが、今日の目当ては決まっている。
清らかな日本の美に会いに行こう。
昨秋の紅葉の頃。春はしだれ桜が美しい。
もしもあなたが万葉のきれいな風に吹かれたいなら、
歌って恋をし、日々を生きる万葉人を身近に感じてみたいなら、
この館を訪れることを、おすすめしたい。
万葉文化館は、いろんなアミューズメントをそろえた館である。
「万葉集」をテーマに掲げたミュージアムであり、
万葉歌にちなんだ創作日本画154点を収蔵する。
だが館の切り口はさまざまで、豊かな「万葉体験」が待っている。
敷地に入れば、そこからすでに日本画の美の世界に誘われる。
大渕池を泉に見立て、100本以上も植わった松や四季折々の花木の間から水面が見える。
同館は故・佐伯勇近畿日本鉄道(現 近鉄グループホールディングス(株))名誉会長の旧邸宅の敷地内に立ち、日本画鑑賞と合わせて趣のある庭園散策も楽しめる。
ちなみに館長は上村淳之その人で、展覧会ごとに館長による美術講演会もある。
「上村松園・松篁・淳之三代展『画家の仕事』~本画・下絵・素描が語るもの~」 12月2日(日)まで開催中
開催中の展覧会は、「上村松園・松篁・淳之三代展『画家の仕事』~本画・下絵・素描が語るもの~」。
三代の本画作品のみならず、本画に至る素描や下絵がよく展示されるのも同館ならでは。
より深く画家の思いに触れ、より近く画家の手を知り、その心の内にある高い理想も「見る」ことができる。
女流日本画の第一人者、松園芸術が堪能できる
左端が上村松園「花がたみ」
第一展示室では会いたかった女(ひと)がいた。
上村松園の「花がたみ」。
凛と気品をたたえた美人画で、つとに名高い松園の代表作であり異色の作。
狂いながらも清らかさに乱れなく、妖しさをたたえた高貴な女人。何度見ても魅入られて吸い寄せられてしまう。
日本画には興味がない、そんな人も惹きつける吸引力があるので、機会があればぜひ見ていただきたい。
他館でも「松園と名打った展覧会は、来場者が増える」とか。
明治に生まれ、女性初の文化勲章受章者となり、その道を切り開き、究めてきた松園芸術をここで存分に堪能する。
「下絵と本画をこのように見られる展示は珍しく、とても興味深いです」と東京から来た武蔵野美大の学生。上村松園「楊貴妃」の前で。
ここに来るといつも思う。日本は、とても美しい。
上村淳之「四季花鳥図」。3つの展示室で三代それぞれの世界を巡る。心が静まり澄むような四季の美に出会う。
時にあでやかに、厳粛に。時に気品高く風趣に富んで。
花に会い、鳥に会い、美女に会う。
ここに来るといつも思う。日本というところは、とても美しいところだと。
作品の持つ品格に心打たれて、背筋が伸びる思いで館を出る。
野点(喫茶)も楽しめる。ふだん非公開の旧佐伯邸内庭で土日祝の11時〜15時に限り喫茶処が開く。(1、2、7、8月は休業)
萩の花が秋風に揺れる。
季節が進めば雪景色も美しく、春のしだれ桜は知られるところ。
青竹の小径を散策し、旧佐伯邸の内庭で数寄屋造りの造作と庭の景色を眺めつつ、お抹茶とお菓子をいただき一息。
とっておきの和の美のさんぽを楽しんだ。
松伯美術館
- 住所/奈良県奈良市登美ヶ丘2-1-4
- 電話/0742-41-6666
- 営業時間/10:00~17:00(入館は16:00まで)
- 定休日/月曜日(祝日となるときは、次の平日)、年末年始、展示替期間
- 駐車場/有