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2018/09/19 01:00

Vol15.北村酒造 醸造「猩々」専務取締役 北村豊一郎

Vol15.北村酒造 醸造「猩々」専務取締役 北村豊一郎

吉野山の恵みをぜいたくに使う山林王一族の蔵


Vol15.北村酒造 醸造「猩々」専務取締役 北村豊一郎

山林王の末息子が醸した木屋の霊酒


本家は山林王。
吉野の大林業家、北村家の一族である。
1788年、天明の大飢饉の年に8番目の末息子が分家を許され、
大変な年ゆえに売りに出された酒造株と酒樽を買ってもらい、酒造りを始めることに。

「木屋の酒」と呼ばれた酒は、吉野の山で木を伐る杣人(きこり)や、その木を筏で流す男たちの癒し酒に。
聖地で修行をする修験者たちは「吉野の霊酒」だと珍重した。

蔵の看板酒の「猩々(しょうじょう)」の名は能の謡曲から。
ある酒屋が猩々と名乗る酒好きの妖精から「酌めども尽きない酒の泉が湧く壷」を与えられたというまことにめでたい祝い曲。
この名を付けたのは4代目の宗四郎で、当主は代々この名を襲名する。

Vol15.北村酒造 醸造「猩々」専務取締役 北村豊一郎

樹齢約180年の吉野杉の柾目で造られた甑を手に。蔵で約50年枯らしたもの。伝統を生かした酒造りの道具に、吉野杉がぜいたくに使われるのはこの蔵ならでは。

「吉野の山とともにある酒です」と語るのは8代目の宗四郎を継ぐことになる、専務の北村豊一郎さん。
その酒は「時代に媚びない、古来からの酒造りを生かした酒」。
しっかりとはりのある旨口の酒である。
「全幅の信頼を置く」南部杜氏と蔵人2人が、今はこの蔵の“猩々”だ。


良い麹をつくり、手作業で伝統の仕込みをする。
ただし「昔ながらの酒」とは一線を画す金賞蔵。
全国新酒鑑評会で今年も昨年も連続で金賞を受賞した。
「豊かな香りは当たり前。今年も味で評価されたと思います」と胸を張る。
もっとも野菜の味が100年前と今では、まったく違うように、酒の味も昔とは違うもの。
「昔の美酒は今の人は濃いすぎると思うでしょう。
今の美酒を昔の人が飲んだら…こんな香水みたいな酒が飲めるか、と怒るのでは」と笑う。

Vol15.北村酒造 醸造「猩々」専務取締役 北村豊一郎

役行者と鬼たちと。蔵イチオシの鬼酒シリーズ


吉野の酒である。
吉野の山が育んだ酒である。
そう強く自負をする。

その蔵が約10年前から出したのが、吉野山ゆかりの修験道のスーパースター、役行者の鬼シリーズ。すべて無濾過無加水の生原酒、限定流通酒である。

岡山雄町で醸したのが役行者幼名の「小角」。兵庫山田錦が「前鬼」、福井五百万石がその妻、「後鬼」。
ともに大吟醸で優劣なく、米の味の好みである。
純米吟醸では前鬼、後鬼の幼名、奈良県産の飯米キヌヒカリが「妙童鬼」で福井五百万石が「善童鬼」。
さらに前鬼、後鬼の5人の子どもたちへと鬼シリーズは続く。
蔵イチオシの鬼酒である。

「私は前鬼推しです」と伝えると、こっそり教えてくれたのが「一年寝かせて肌燗で」。3種の米で一番熟成が遅いのが山田錦。
いつまでも美味く飲める。しまった、もう飲んじゃいましたよ。
「もちろん、それも良し」とにっこり。
ちなみに熟成の早い雄町の小角は米の味がしっかり。鬼のレディ、後鬼はその名にふさわしく、軽やかな味わいで女性にも好まれるとか。

奈良県産の飯米ではキヌヒカリのほかヒノヒカリも使うし、吉野町産の酒造好適米、吟のさとも使う。
「奈良の味、吉野の味を出していきたい」。

それが地の酒たるもの。
蔵の願いである。



Vol15.北村酒造 醸造「猩々」専務取締役 北村豊一郎

蔵の裏門。通りに面したここは実は3階。約20年分の杉玉がずらりと吊るされていた。

吉野の山の財を使い、ふんだんに
50年枯らした樹齢180年の大甑


案内された酒蔵の造りは吉野の山の蔵ゆえの、傾斜を利用した珍しい「階(きざはし)造り」。
酒蔵正面を入り、1階スロープを上ったところが貯蔵庫で「ここが2階」。
3階の仕込み蔵へと上がったところで扉が開くとそこは裏通り。
「昔の伊勢街道。参勤交代で紀州の殿様が通った道ですよ」。
この裏口から入って上階へゆけばそこは米倉となる4階。
蔵は実のところは4階建てなのである。
貯蔵庫は土の下だから夏もひんやり涼しく酒造りに適す。

Vol15.北村酒造 醸造「猩々」専務取締役 北村豊一郎

のれんの向こう、スロープを上ると地下道に続き、貯蔵庫へ。珍しい階(きざはし)造りで建つ。

3階の仕込み蔵には大きな吉野杉の甑(こしき)がある。
上等な柾目(まさめ)で造られた、なんと180年モノである。これで米を蒸す。
「100年くらいじゃだめなんですよ」。しかも寿命はわずか10年という。
「金属を使えば20〜30年保つのでしょうが、これがいい。甑肌がよろしいと米がうまい、酒がうまくなるんですよ」。

実は蔵は本家とは別に山持ちであり、その財を使うのである。
「ずっとうちは甑の材料をとってあるんですよ。杉はしっかり枯らして乾かさないとだめ。この杉は40〜50年枯らしたもの」。
すでに次の甑の材料も今から枯らしているという。
これほどの甑が使える蔵は全国にどれほどあるだろう。

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酛立てに使う半切りも甑同様、今は金属製を使う蔵がほとんどだが、ここではもちろん吉野杉。甑の寿命がくると半切りに仕立て直し、最後まで使い切る。

メンテナンスも大変である。
もちろん元手も。およそ500万円するという。

「昔は吉野にも桶屋がいたが、今は近辺では堺に1軒だけ」と嘆きつつ、こだわりは守り抜く。
「自己満足にならぬよう“最善の昔”を選びます」。

甑はその一つに過ぎない。酒造りのすべてにこの精神を息づかせる。
吉野の山と生きる蔵。吉野の山の恵みをぜいたくに使う蔵。
役行者が今の世にいたならば、猩々と楽しく酌み交わすのはこの酒だろう。

北村酒造株式会社

  • 住所/奈良県吉野郡吉野町上市172-1
  • 電話/0746-32-2020
  • 営業時間/
  • 定休日/無
  • 駐車場/なし
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