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2018/03/28 18:45

Vol9.大倉本家酒造 醸造「大倉」「濁酒」社長 大倉隆彦

Vol9.大倉本家酒造 醸造「大倉」「濁酒」社長 大倉隆彦

どろりと本物、神の濁酒。ふところ深い、山廃仕込み。
愚直なまでにこれまでも、そしてこれからも
渾身込めて、強力なローキックを放ち続ける。




濃い酒である。ぶあつい酒である。くいっとあおればドスの効いた太い酒。
大倉と聞けば山廃仕込み。大倉といえば水酛(もと)濁酒。
伝統の秘技を継承する。この蔵ならではの酒がある。この蔵にしか出せない酒がある。

「ごっついねんけど、優しいねん」。友は頰を染めて盃を空ける。大倉の山廃はいつも濃醇。最初の一口はガツン、だがその飲み口は存外に柔らかで、きれいな酒質。ふところ深く包み込んで飽きさせない。



Vol9.大倉本家酒造 醸造「大倉」「濁酒」社長 大倉隆彦

大半の蔵が市販の速醸を使うなか、昔ながらの山廃で手間をかけ、醸し続けて今がある。

愚直なほどに真っ当に


創業は明治29年。酒蔵としては新しい。だからこそ、代々「愚直なほどに真っ当な酒」にこだわって、胸を張って醸してきた。

仕込みの大半が手間のかかる山廃という、たぐいまれな蔵である。それは創業時から現在に至るまで変わらない。蔵の歴史と信条に重なるものなのである。

戦前、戦後、いかなる時期も、この蔵はかたくなに山廃の濃い酒を醸した。だからこそ、昭和に奈良の蔵のほとんどが、大手メーカーの下請け「桶売り」に転じたときも無縁であった。売れて、呑まれて、その必要がなかったのである。最盛期は6000石を醸し、地元では大手の「白鶴」と大倉の「金鼓」があれば、それで酒屋が成り立つと言われたほどに愛された。

ところが地元で売れるがゆえ、平成の地酒ブームに「外に出ずに出遅れた」。蔵の酒量は下降を続け、そこに先代蔵元が病床に。ついに休蔵となる。

Vol9.大倉本家酒造 醸造「大倉」「濁酒」社長 大倉隆彦

人の風にあてられて


現在の四代目蔵元、大倉隆彦さんが蔵に戻ったのは平成13年の休蔵のさなか。横浜でのサラリーマン勤めを辞してきた。残された酒を売り「後始末をするため」であった。

思いも寄らぬ蔵の復活は、「人の風にあてられて」。

酒の配達に行くと、蔵の歴史を聞かされる。代々の思いを知らされる。奈良の地酒専門店の面々が口々に言う。「なぜ、継がない」。

おまえはこの名蔵を終わらせるのか、と。

Vol9.大倉本家酒造 醸造「大倉」「濁酒」社長 大倉隆彦

大倉、復活


蔵の盛衰を見て断腸の思いで決した父は、息子の継ぐ決意を突っぱねた。だが息子はあきらめない。病床の父を説得し続け、許しが出たのはそれから2年後。

休蔵前の但馬杜氏と蔵人を呼び戻し、昔ながらの銘柄「金鼓」とともに、限定流通酒「大倉」を蔵の看板として再開することに。

造りの修行に就いて5年の後に自ら杜氏に。蔵の伝承を継いで、“山廃の大倉”、“水酛濁酒の大倉”を復活させた。


Vol9.大倉本家酒造 醸造「大倉」「濁酒」社長 大倉隆彦

「あれはすごかった。あれを造ってくれ。おまえのとこなら、できるはずや」


大倉の濁酒は、神の酒である。奈良県神社庁からの委託で「新穀感謝祭(新嘗祭)」の御神酒として醸し続ける。

にごり酒ではない。いわゆる清酒表記ではない本物のどぶろく。さらに室町時代の古典技法、水酛(菩提酛)で醸し、いっさいもろみを濾さないそれは、おかゆのよう。トロトロ、どろり。口に含めば冥加かな。ぴちぴちした微発泡の酸はヨーグルトのように爽やかでジューシー。食べる酒、のようである。

休蔵の際、御神酒造りは一度は他社に頼んだが、平成16年、古式伝承、水酛濁酒を復活。神から人へ。今度は市販。

「あれはすごかった。あれを造ってくれ。おまえのとこなら、できるはずや」。
父の代に、たまたま造りの最中に訪れて、門外不出の1本を手にした、これまた地酒専門店からの「人の風に当てられて」。神社向けで「誰も知らなかった」酒が、陽の目を見ることに。

Vol9.大倉本家酒造 醸造「大倉」「濁酒」社長 大倉隆彦

山廃も手間がかかるが、この水酛濁酒は一層の根気仕事。蔵付きの強い野生酵母を生かし、強い野生の乳酸菌を育て、水酛で醸す。

しかも濁酒である。瓶詰めは1本1本手詰め。平成28年からは再び御神酒造りの委託を受けるが、こちらはさらに瓶燗の作業が加わり「“おかゆ”が煮詰まらないよう」合計1,800本を何度も行き来し、棒でかき混ぜ火入れするという。奈良県下や京都の伏見稲荷大社にもこの酒が行く。

Vol9.大倉本家酒造 醸造「大倉」「濁酒」社長 大倉隆彦

米は酒の造りで変わるが、奈良県産の飯米、ヒノヒカリが多い。蔵の田んぼで自家栽培米も醸す。「昔はどの蔵も地元の米で醸したもの」。これこそ地酒。

「かたくなにこだわる」。とある酒屋はうれしそうに評す。「重いものを負っても本物を造る」。別の酒屋も言う。
本人はその酒屋と大倉を愛飲する人々に背中を押されてきたのだと笑う。
「僕らは歴史の中にいるだけ」。

次の造りは、「こんな米でこんな酒を醸そうと思う」と言えば、「山廃やろ」「そんな米で山廃知らんな、やってくれ」と返される。速醸をしようものなら「なんでやねん」。

これぞ大倉。それは山廃。酒呑みのハートには、そして奈良の地酒の歴史には、ふところ深い大倉の、ぶあつい酒が刻まれている。

Vol9.大倉本家酒造 醸造「大倉」「濁酒」社長 大倉隆彦

居酒屋で銘柄の分からぬ酒が出てきた。呑んでみる。うまい。「これ、大倉やね」と客。「そうでっせ」と店主。「そういう酒でありたいです」。

うちの酒は、センターじゃない


「うちの酒は、センターじゃない」と蔵元は言う。「AKBで言えば端っこで歌う。サッカーで言えばフォワードじゃなくてバック。トレンドの中心にはいない。逆に言えばいたくない。時代に流されずに、自分たちはこうだ、というものをずっと持ち続けていたいですね」。

「僕らはローキックやね」。蔵人ともそう話す。
「全然かっこよくなくて、ずっとローキックしかないキックボクサー。でも熱心なファンがいて、こいつがいいと言ってくれる」。

アッパーの一発で、華々しく決めることはない。地道に一途にひたすらに、ローキックを放ち続ける。
毎日、毎日、渾身込めて。とどまることなく、今日も明日もこれからも。

株式会社大倉本家

  • 住所/奈良県香芝市鎌田692
  • 電話/0745-52-2018
  • 営業時間/
  • 定休日/無
  • 駐車場/なし
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