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大和蔵元探訪酒めぐり

Vol18.中谷酒造「三日踊り」「奈良吟」社長 中谷正人

中国で成功、成果は母蔵の旨酒へ「三日踊り」「奈良吟」蔵元インタビュー

  • 情報掲載日:2018.12.26
  • ※最新の情報とは異なる場合があります。ご了承ください。

中国でいち早く成功した清酒(=日本酒*地理的表示のため)のリーディングカンバニーである。
その名は天津中谷酒造有限公司。
質の高い清酒を中国で醸造し、今や中国の清酒市場の20%を占める。

正暦寺の酒造りに使った酒壺。江戸の終わりに酒造株とともに、ここに。以来、蔵の歴史を重ねて代々の酒造りを見守る。
正暦寺の酒造りに使った酒壺。江戸の終わりに酒造株とともに、ここに。以来、蔵の歴史を重ねて代々の酒造りを見守る。

その母体は奈良にある。嘉永6年(1853年)創業。
清酒ゆかりの地、古くは菩提酛で名高い正暦寺の酒を積み出す河川港であった番条に、蔵を構える中谷酒造。

中国進出は、6代目の当主・中谷正人さんが、苦難とともに先駆け、切り開いた道である。

成功譚の序章は、家族の物語から始まった

自動車メーカー勤務の後、北京での語学研修を経て総合商社で活躍するも、家族が相次ぎ亡くなり、一人残る父を案じて退社。だが世間の清酒離れは進み、業界は斜陽。

法務に長け、英語、中国語に堪能なことから、渉外弁護士として身を立てようと準備を進めるある日、造りの相談に来た杜氏からある話を耳にした。

中国で清酒を醸造する蔵がある。

月に1回、要望を受けて酒蔵見学を行う。試飲もあり。
月に1回、要望を受けて酒蔵見学を行う。試飲もあり。

商社マンで、蔵の子で
「私なら、できる」

商社ではメーカーの海外拠点の運営や中国法務も担当していた。言語も文化も人も、中国の事情が分かる。

何より商社マンでも蔵の子だ。酒造りは学んでいた。
「私ならできる」。火が点いた。

蔵は継がぬと思っていたが、一転、財を投じて賭けに出た。
1995年、今から約23年前のことである。

土壌が違う。文化が違う。人が違う
水・米・人で成功する

場所は米の産地に近い天津に決めた。
実は満州国の時代から、中国では日本人移民が米作りをしてきた歴史がある。河北省では、日本の国策会社が日本に輸出するために日本米を栽培していた。今も作るのは昔の日本の飯米、うるち米である。
「粘りが少なく非常に“さばけ”が良い。酒造りに適した米です」
そして水。造りにはミネラルが多すぎる硬水を、軟水に加工する苦労を重ね、逆浸透膜にたどりついた。

造りはデータを細緻に取り、徹底してマニュアル化。数値管理可能な最新設備を導入した。
文化の違う国で、「杜氏の勘で、経験で」はありえない。一部の隙なく誤りなきよう管理する。

中国は米も人件費も安い。ならば安価な酒をと考えそうだが、元商社マンの目が光る。
「米が安いなら、ぜいたくに磨き尽くして、とびきり良い酒を造ればいい」。
最新鋭の精米機2台を持ち込み、磨く、磨く。標準の純米大吟醸は39%まで磨く。このスタイルが当たって、今がある。



全国新酒鑑評会ほかで金賞を重ねる実力蔵。「三日踊」と「奈良吟」は自家栽培米を使う。
全国新酒鑑評会ほかで金賞を重ねる実力蔵。「三日踊」と「奈良吟」は自家栽培米を使う。

そして奈良。母体の蔵に成果が戻る
すべてが醍醐味、すべてが生きがい

中谷酒造自体は小さな蔵である。だが蔵の規模では「到底ありえない」最新鋭の設備が揃う。

「酒の質を上げるためなら、金に糸目はつけません」。

成功者の単なる自負ではない。
中国でも日本でも、製造も販売も、管理から実務まで。すべてを見て、総責任を負ってきた。

「米の栽培から精米、原料処理や吸水、麹造りや温度管理も一番近いところにずっといる」。

中国で得た確信を日本に持ち込み、日本で得た技術を中国へ投入。
踏ん張ることこそ、成功への鍵であると信じているから。

そしてまた、「経営も酒造りもすべてが醍醐味。すべてがわたしの生きがい」だから。

麹の成長を管理する最新鋭の機器を入れる。「設計したとおりの酒を造ります」。
麹の成長を管理する最新鋭の機器を入れる。「設計したとおりの酒を造ります」。
全自動精米機を通った米は糠気がないので麹米は洗米をせず吸水のみ。「酒質に関係ないところには労力をかけない主義。酒質向上に必要なことだけをすればいい」。
全自動精米機を通った米は糠気がないので麹米は洗米をせず吸水のみ。「酒質に関係ないところには労力をかけない主義。酒質向上に必要なことだけをすればいい」。

「三日踊」はその名の通り、三段仕込みの1回目と2回目の原料投入の間に設ける酵母菌の増殖を待つ日(踊り)の日数を通常1日から1日半であるところ、3日踊らせたもの。
たとえば大神神社の笹ゆり由来の酵母「山乃かみ酵母」を使った「三日踊」はバナナのような独特の香りと生酛のような旨味を持つ。
「力強い発酵で、酵母菌本来の力を存分に発揮させています」。

「奈良吟」もまたこの蔵の魅力を伝える1本。炭酸ガスが残る新鮮なうちに瓶詰め、瓶熟成。封を切って空気に触れていくほどに「フレッシュな風味から熟成酒の旨味へと味わいの変化が楽しめます」。
味の変わりが面白いと中国でも評判の旨酒となっている。

冷蔵コンテナの前で。コンテナごとに設定温度を調整。栓をした状態で瓶貯蔵。仕込み蔵は冬でもエアコンで徹底調温。「年間を通じて、いつ飲んでもうまい酒に」。
冷蔵コンテナの前で。コンテナごとに設定温度を調整。栓をした状態で瓶貯蔵。仕込み蔵は冬でもエアコンで徹底調温。「年間を通じて、いつ飲んでもうまい酒に」。

道を拓いてきた。切磋琢磨を続け、多くの賞も受賞。内外での評価も得た。
リーディングカンパニーは、この先に何を見ているのだろう。

「国内のマーケットは、清酒離れが止まらず、まだまだ縮小するでしょう」。
一方、中国は発展が見込まれる。
「輸出を増やし、国内は下がることを前提にいろんな事に挑み続けて、しぶとく頑張る。これに尽きますね」。

恐れず先んじて手を打ってきた。だからこそ今がある。
中谷酒造はまだまだ勝機を逃さず先へ行く。
そこには蔵の明日と清酒の未来があるはずだ。

Information

中谷酒造株式会社
住所
奈良県大和郡山市番条町561
電話番号
0743-56-2296
リンク
中谷酒造

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