2018/05/09 01:00
vol10.宇陀の山里でアートと人がつながる『ギャラリー夢雲』
山道を抜けると、そこにアートの「場」が開く
この場に初めて立つ人は、心地よさに声を上げるのではないか。
木々が緑の枝葉を広げる広い庭の先は、山々が重なり合う。
ギャラリーは築300年になる江戸時代の古民家を、元は空間デザイナーであるオーナーの山脇優喜美さんが、1年かけて改装。平成9年から開く。
晴れやかな光がそそぎ、澄んだ風が渡る。古い時の積もりを味方にしたアートのための空間が、いくつもある部屋ごとに姿を変えながら、訪れる人を迎え入れる。
その中心にあるのはアートだが、場をつくり、作品と作家と人をつなぐのは山脇さんである。
展示室とは別に、囲炉裏のあるサロンのような空間があり、庭にもいくつも座る場所がある。美しいしつらえの空間で、人々はアートを介してつながり合う。
ここでは作家にも会える。それは山脇さんの願いでもある。
「作品の奥には作家がいる」。自身もそうして作家とふれあい、作品と幸せな出会いを果たしてきたから。
展覧会開催中は、作家に滞在してもらいたい。そのための別宅もあり、寝食を用意する。無理な場合もあるが、できるだけ。作家を友とし、その声を聞いてきたから、負担なきようにと寄り添いつつ。
お楽しみはもう一つ。もはや名物とも言える「心と身体に優しいケータリング」。
期間中の数日、1日に1店。遠方からの客が多いため、山の中では食べる場所もないと始めたが、「おいしい食べものがあると、人も場も勢いがつきますね」。
夢で見た家と会う。私はここで何ができるだろう
ギャラリー夢雲の始まりは、母の看取りの家を探したことからであった。
壁は崩れ、うっそうと樹木に覆われた、暗くて朽ちた家。ここはだめだと帰ろうとした時、柿の木の向こうに素晴らしい景色が見えた。
思い返して家に入ると、どこかで見たことがあり、ハッとした。いつであったか夢で見た場所だった。
光と風と素晴らしい景色とともに。1年の余命宣告を受けた母は9年、生きた。
山脇さんと三代目の夢雲。元は保護犬。今はここで幸せな日々を送る。
ギャラリー名は犬が先である。
犬を迎えに行った夜、見上げると上弦の美しい月に照らされた。名前は夢雲(むうん)にしよう。温かな彼女の体を抱きしめた。
「私はここで何ができるだろう」。この家と母と犬と、この地で暮らすことを決めたとき、自身に問うた。
もともとアートが好きで、多くの作家の作品を所有していた。
「作家は作品づくりに人生を賭けている。その思いを受けて、自分は場をつくれるのではないかと思い、ここまで来ました」。
それから20年。「夢中でしたね」。三代目となる夢雲をかたわらに、いくつもの夢が重なり、いくつものアートの出会いを生んだ場で振り返る。
この先を聞けば、「今年、古希を迎えましたが、まだしばらくは。夢中でいられる限りは」と微笑んだ。
ギャラリー夢雲
- 住所/奈良県宇陀市室生向渕415
- 電話/0745-92-3960
- 営業時間/11:00~18:00
- 定休日/展覧会の会期中は無休(冬季休廊)
- 駐車場/有