2017/11/01 01:00
vol3.古道を歩き、巨匠たちとデートする『喜多美術館』
日本最古の社の一つ、大神神社のすぐ近く。これまた日本最古の街道「山の辺の道」をずんずん歩く。今日は“巨匠たち”とデートの日。親密で濃厚な至福のときが待っている。
はるかな歴史をたたえた大和の古道の道沿いに、喜多美術館はある。
所蔵作を記した看板を見て、つぶやく人がいる。「こんな田舎に、なんでやねん」。
最初に目に飛び込むのは、廃物に美をもたらしたアルマン・フェルナンデスの彫刻、バイオリン・シリーズ5体。館の前庭でおだやかな大和の空気にさらされている。山の辺の道に映えるアルマン。なかなかの光景である。
パリ時代のゴッホに晩年のピカソ。なんとぜいたくな部屋だろう
館は時代ごと、作家ごとに3つの部屋と別館、新館に分かれている。
第1展示室で会えるのは、近代のそうそうたる巨匠たち。パリ時代のゴッホに晩年のピカソ、ルオーにルノワール、ブラックやユトリロも。藤田嗣治や佐伯祐三など日本人作家の作品も並ぶ。中央に鎮座するのはルノワールの母子ブロンズ像。
なんとぜいたくな部屋だろう。
都心の大美術館の行列とは無縁。来館者は他になく、今は私1人の貸切状態。
巨匠たちとこんなに身近な時を過ごせるとは。
大好きなジャッドに会う。振り向けばウォーホール!この近さは恋人級
イブ・クラインから始まる2つ目の部屋はジャスパー・ジョーンズやサム・フランシス、ラウシェンバーグなど現代アートの巨匠たちがおわす部屋。
大好きなミニマル・アートの巨匠ドナルド・ジャッドの作品の前で、無の美の力に圧倒され、振り向けばアンディ・ウォーホールの「TOMATO BOX」に「!」となる。
この作品は以前は床に置かれていたが、あまりの「身近さ」に傘やカバンを置く人が続出し、台に乗せられたとか。
しかし、いつ来ても、何度来てもときめかずにいられない。この近さ。恋人級デス。
なぜここに、これほどに。「ボイスとデュシャンの部屋」に驚く。
次は本館に連なる別館へ。圧巻の「ボイスとデュシャンの部屋」。20世紀アートに大きな転機をもたらしたヨーゼフ・ボイス、マルセル・デュシャンの世界がかいま見られる。
この部屋見たさに訪れた人ですら「まさかこれほど揃うとは」と驚くそうだ。その胸中では冒頭の「こんな田舎に、なんでやねん」が繰り返されているだろう。
現代アートの展示と、絵画教室を兼ね図書室た部屋もある。写真の新館は若手作家の発表の場として設けられたもの。写真は10月に開催された「古田千咲展」。
喜多美術館は昭和63年開館。所蔵はこの地に生きた稀代のコレクター、喜多才治郎が長年かけて集めたもの。
ルノワールやゴッホを世界で買ううち、現代アートに目を開いて「面白い!」と夢中になった。日本の画商たちが、ついていけない先駆の目で収集を重ねたという。
美術館は「ある日、蔵から出した作品にカビを発見した」のが始まり。「もう、しまい込んで1人で見ている時代じゃない」と、最適な保存場所として所有地に開館した。
「身近」感満載の展示は、才治郎氏の願うところ。当初は額にガラスは不要と考えたほど。ここは彼の宝の「蔵」で、取り出し眺めた夢の「部屋」であるからだ。巨匠たちとの親密で濃厚なデートは、“夢の蔵”での逢瀬となる。
喜多美術館
- 住所/奈良県桜井市金屋730
- 電話/0744-45-2849
- 営業時間/10:00~17:00(入館は16:30まで)
- 定休日/月・木曜(祝日の場合は翌日)
- 駐車場/有