2017/12/08 22:44
vol6. 吉野の山奥で原木しいたけを育てる、岡本隆志さんに出会う
そもそも原木しいたけって何?
取材当初、何も知らないまま吉野へ向かった。私たちが普段食べているしいたけは「原木しいたけ」ではなく「菌床しいたけ」と呼ばれるもの。しいたけ消費量の9割以上がこれである。そして、今や生産量の1割にも満たないものが「原木しいたけ」だ。
10年ほど前、効率性と生産性を追い求めてつくられた菌床しいたけが普及する一方で、原木しいたけの生産量は年々落ち込み、後継者もほとんどいない状況にある。さらには中国産の輸入しいたけの登場によって、価格競争は激しさを増し、益々生産者は激減した。
そして今や、食材の手軽さを提供するあまり、しいたけ本来が持つ「濃い味」や「香り」、「歯ごたえ」は見失われつつある。
原木しいたけと菌床しいたけの栽培方法、栽培期間は全くと言っていいほど違うということを、今の今まで私は知らなかった。むしろ、知ろうとしなかったというのが恥ずかしい本音だ。
原木と菌床の違いを簡単に言えば、手がかからず、わずかなスペースで大量生産ができ、わずか3〜4ヶ月で収穫ができるのが「菌床しいたけ」。これに対し、木を切り倒すところから始まり、かなりの手間暇と重労働、何より収穫まで約1〜2年という長い年月を要するのが「原木しいたけ」だ。
こんなに手をかけてまで原木しいたけを守り続ける岡本さんに、今回はクローズアップした。
原木しいたけ
岡本隆志(おかもとたかし)さん
原木しいたけをつくり続ける理由
岡本さんは、あえて否定的な言葉から私たちに話してくれた。「しいたけって主食にはならないんですよ。つまり、極端に言えば食べなくてもいいってことなんですよね」。本末転倒な言葉に、思わず詰まる。それでもつくり続ける理由があるのだろうか。
岡本さんの苦労は計り知れない。まず、冬に1万2,000本という原木を仕入れ、その1本1本に約60個の菌を打ち込む。その後、ビニールで覆い隠し3ヶ月ほどねかせる。この間に、しいたけ菌が原木を食べ始めるという。そして春〜夏にかけて、木をひっくり返す「天地返し」という作業を行う。これは半分ほど食い尽くしたしいたけ菌を、次は原木全体に蔓延させるためだ。この作業を数回繰り返し、菌を打ち込んでからなんと約1年かけ、ようやくしいたけが発生する準備が整うという。そこから原木を水につけると、2週間ほどでしいたけが発生するという栽培方法だ。これは、あくまでもざっくりとした説明であり、その裏側には、木・水・気温・風通し・湿気など、その土地の自然の摂理に合わせた育て方や環境づくりが重要で、大変な作業だと教えてくれた。それらすべての作業を岡本さんが担い、配送や販売関連を奥さま、収穫や出荷作業を岡本さんのお父さまとお母さまが行うという家族経営のスタイル。
思い切って聞いてみる。なぜ原木しいたけなんですか?
「おばぁちゃんから親父へ、親父から僕へと継いできた責任ももちろんある。でも、僕は家業を守ることが大事だとは思ってないんですよね。しいたけを食べる人がいなくなったら、この仕事もなくなるやろう。でも、まずは家族がいるから、食べさせていかなあかん。そのためには、単純にいいしいたけをつくって、消費者に食べることを続けてもらえるようにしやんとダメなんですよね」。環境問題とか地域のためを考えたこともあったという。でもそれはどれも岡本さんにとっては飾りの言葉にすぎない。何よりも、大切な家族を守るため。そのために、「濃い味」「香り」「歯ごたえ」という、失われつつあるしいたけ本来の味を消費者に届け、「食べることをやめさせない」ことが大事なんだと語ってくれた。
新鮮しいたけおかもと
- 住所/奈良県吉野郡吉野町樫尾51-1
- 電話/0746-36-6711
- 営業時間/
- 定休日/無
- 駐車場/なし